脳動脈瘤の治療の話 9 未破裂脳動脈瘤の治療 クリッピング術とコイル塞栓術 | ある脳外科医のぼやき

ある脳外科医のぼやき

脳や脳外科にまつわる話や、内側から見た日本の医療の現状をぼやきます。独断と偏見に満ちているかもしれませんが、病院に通っている人、これから医療の世界に入る人、ここに書いてある知識が多少なりと参考になればと思います。
*旧題「ある脳外科医のダークなぼやき」


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今回は未破裂脳動脈瘤の治療について、

クリッピング術とコイル塞栓術の棲み分けについて書いていきたいと思います。

 

最初に申し上げますが、

どちらが優れた治療か?ということを一概に申し上げることはできません。

異なる治療なので、優劣という視点で比べること自体がナンセンスなのです。

 

実際、どちらが合併症リスクが高いのかどうかを比べた研究というものはあります。

この結果は、特に合併症率に差がない、という結果になっております。

 

しかし、こういった研究もやはり、ある程度の意味合いはあるものの、

ナンセンスだと私は思うのです。

 

クリッピングにしても、コイル塞栓術にしても、

十分な技量のある脳外科医が手術を行えば、重篤な合併症の確率は極めて低いです。

入念な術前検討と、適格な治療戦略、正確な手技、が伴えば、

そうそう致命的な合併症は起こるものではありません。

 

ただ、逆に、どんな人間も完璧、や100%はありえませんので、

予期せぬトラブルが起こることは様々な原因で起こりえます。

そういう意味で、合併症はやはり完全にゼロにはならないのです。

これはどちらの治療でも同じことです。

 

ただ、やはり、

動脈瘤の場所や形状、サイズによって、

どちらの治療がより易しい、ということはあります。

 

くも膜下出血をきたした破裂脳動脈瘤の治療の際には、

正直いって、開頭クリッピング術は難易度や手間が上がります。

 

これは手術の時の視認性が未破裂の状態とは天と地ほど違うからです。

くも膜下出血を起こしたあとでは、脳の周りは固まった血液でパックされた状態になっており、

その血液ゼリーの中に血管などが埋まっている状態です。

濃いグレープフルーツゼリーの中に果物がうまっているような感じです。

一方、未破裂の状態ではそういった血液ゼリーはありませんので、

細い血管も全て、容易に視認できます。

 

そういった状況も影響して、破裂脳動脈瘤の治療では、コイル塞栓術の方が結果がいいというISATの結果がでたと、

私は思っています。

 

ただ、未破裂の場合では、開頭術中の視認性も十分によいわけですから、

丁寧な操作を心がければ、動脈瘤へのアプローチの最中に正常血管を傷つけるようなことはほとんどありません。

脳へのダメージは最小限で治療することができます。

 

この条件下であれば、コイル塞栓術と比べて、劣ることはないのです。

むしろ、動脈瘤そのものが十分に視認される状況までもっていくことができれば、

動脈瘤の根治性という点でクリッピングに分があります。

 

ただ、そうはいっても、その動脈瘤を十分に視認する状況にもっていくまでが困難な位置の動脈瘤はありますし、

困難というほどでなくても、カテーテルの方がずっと楽にアプローチできる場所もあります。

 

こういう場所の動脈瘤に関しては、やはりクリッピング術よりもコイル塞栓術の方が、

よりeasyに治療できるのです。

具体的には脳底動脈瘤や、ある種の内頚動脈瘤などがこれにあたります。

 

逆に開頭でのアプローチがほぼ常に可能で、

コイル塞栓術が難しいような形状の多い中大脳動脈瘤に関しては、クリッピング術の方が適していると、

私は考えています。

 

ここから先は完全に私見ですが、

開頭クリッピングvsコイル塞栓術 で、いずれが適している場合が多いかの比率を部位ごとに書くと、

 

中大脳動脈瘤: 8 vs 2

前交通動脈瘤: 4 vs 6

内頸動脈後交通動脈瘤(ICPC): 4 vs 6

内頸動脈前脈絡叢動脈瘤: 7 vs 3

内頚動脈瘤(ICPCよりも近位): 1 vs 9

脳底動脈瘤: 0 vs 10

椎骨動脈瘤: 3 vs 7

 

というような印象です。まあ、これは脳外科医によってだいぶ異なると思いますが、

一応、クリッピングもコイル塞栓術も両方選択肢として比較的フラットな立場で考えているつもりの脳外科医の私見として、

参考にしてください。

 

まあ、実際は動脈瘤の形や、正常血管との関係など、様々な条件によって、

症例それぞれなのですが、ざっと大まかに考えると、上記のような感じかなぁ、というところです。

 

あとは、

破裂動脈瘤の場合は、やはりコイル塞栓術ができればコイル塞栓術で考えることが多いですが、

未破裂の場合はよりフラットな立場で考えています。

 

どちらが優れた治療か?

ということは最初にも書きましたけど、結局症例次第で、ケースバイケースです。

 

長いこと動脈瘤治療について書いてきましたが、何か参考になれば幸いです。

最後に次回は巨大脳動脈瘤の記事を書いて、このシリーズを終わりにしたいと思います。 

 

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