ある脳外科医のぼやき

脳や脳外科にまつわる話や、内側から見た日本の医療の現状をぼやきます。独断と偏見に満ちているかもしれませんが、病院に通っている人、これから医療の世界に入る人、ここに書いてある知識が多少なりと参考になればと思います。
*旧題「ある脳外科医のダークなぼやき」


テーマ:

長いこと脳動脈瘤の治療の話を書いてきました。

 

最後に未破裂脳動脈瘤の治療について書いていきます。

破裂脳動脈瘤となにが最も違うかというと、

これは当然ですが、その動脈瘤はまだ破裂していない、ということです。

 

言い換えれば、

今後その動脈瘤が破裂するかどうかわからない、ということです。

 

脳動脈瘤は、通常は破裂しなければ無害であることがほとんどですから、

破裂しない動脈瘤を治療することにあまり意義はありません。

 

未破裂脳動脈瘤が存在するだけで、なにか悪影響をを及ぼすとすれば、2つだけです。

1つは瘤が非常大きい場合に、脳神経を圧迫するなどして症状を起こす可能性があること。

もう1つは、動脈瘤があるという事実が患者さんに精神的なストレスを与え、場合によっては、うつ状態になるなど、

日常生活に大きく影響を及ぼすことです。

 

これらの2つはどちらも、未破裂脳動脈瘤を治療する理由になります。

特に後者の精神的負担は、実際に患者さんが治療を希望する動機の割合として、結構高いように思います。

 

しかしながら、通常は、

未破裂脳動脈瘤を治療するにあたって、最も重視されるべき要素は、

やはりその動脈瘤の破裂確率です。

 

破裂してくも膜下出血を起こした場合には、死亡率、後遺症を負うリスクは極めて高く、

無事に社会復帰できる人は4人から5人に1人と言われるほどですから、脳動脈瘤の破裂が非常に危険だということには間違いがありません。

 

治療リスクに関しても破裂後よりも破裂前の方がずっと安全です。

 

ただ、一方で、ほっておいても破裂しない動脈瘤を治療したところで、

それは治療のし損になるわけですから、

破裂しそうな動脈瘤を治療して、そうでないものは様子観察する、という見極めが重要になります。

 

日本人の脳動脈瘤の部位別の破裂率というのは、

UCASという研究で詳しくまとめられています。

かいつまんで要点を書くと、

全般的に破裂しやすいのは内頸動脈後交通動脈分岐部(IC-PC)と、前交通動脈瘤(Acom)の動脈瘤で、

この2つの部位の動脈瘤はサイズが小さくとも治療する理由になります。

大きさ別にみていくと、

3-4mmの小さな動脈瘤で破裂しやすいのは前交通動脈瘤で、年間0.9%ですが、

他の部位はのきなみ破裂率が低く、ICPCでも0.4%、他の部位の内頚動脈瘤にいたっては0.14%。

中大脳動脈瘤(MCA)と脳底動脈先端部(Ba-tip)などは0.23%です。

頻度としては、これくらいの小さな動脈瘤が一番多いわけですが、実際に危ないのはA-comくらいなんですね。

A-comであっても、10年で9%弱程度の破裂率です。

ICPC以外の内頸動脈瘤であれば、10年で1%ちょっというわけですから、これはもう、ほとんど破裂することはない部類になります。

 

5-6mmとなると少し全体に破裂率が上昇して、

IC-PCであると年間1%、A-comはなぜか3-4mmのものより少し下がるのですが、0.75%。

MCA(0.31%)やBa-tip(0.46%)は依然として破裂リスクは低いです。

 

7-9mmになってくると、破裂率は全体にさらにあがります。

IC-PCは年間3.19%ですから、かなり高い。これはもう10年で30%程度の人が破裂することになりますから、10年放置すると3人に1人くらいがクモ膜下出血です。数字の上では。

A-comも上がって、1.97%。 MCAでも1.56%です。

これらの動脈瘤に関しては7-9mmとなった場合にはやはり破裂率が年間1%を超えてくるので、治療した方が良いと思えるものです。

IC-PCなんかはまず、治療すべきのように思います。

Ba-tipは0.97%、ICPC以外の内頚動脈瘤は1.19%ですから、この辺りは7-9mmになろうと、年間1%前後ということで、

治療すべきかどうかは年齢などにもよるのかもしれません。まあ、年1%を越えたら治療した方が無難というように私は思いますが。

 

10mmを越えてくると、もうほとんどの部位の動脈瘤が治療すべき、となってきます。

なぜなら、10-24mmの大きさで、MCA 4.11、Acom 5.24、IC-PC 6.12, Ba-tip 6.94、と軒並み高いからです。

ここまで書いてきませんでしたが、椎骨動脈(VA)の動脈瘤も10mm以上だと、3.49%です。

VAは何故書いてこなかったかというと、3-4mm,5-6mm,7-9mmの群のいずれもVAはこの研究では0%だからです。

ただ、実際にはゼロということはありません。実際にこのくらいのサイズでもVAの動脈瘤が破裂して運ばれてくる患者はいるからです。

数が少ないので、この研究ではゼロになったというだけで、実際にはそう高くはないものの、MCAくらいの破裂率があって不思議ではありません。

10-24mmの動脈瘤でそれほど破裂率が高くないのは唯一、ICPC以外の内頚動脈瘤です。

これは、年間1.09%ということになっておりますので、まあ、7-9mmとかわらないんですね。

元の血管が太いから、ということなんだろうとは思います。

 

25mmを越える脳動脈瘤はgiantと呼ばれますが、

年間破裂率は極めて高くなります。

MCA 16.87,  Acom 39.77,  IC-PC 126.97, Ba-tip 117.82, ICPC以外の内頚動脈瘤 10.61、VAはこれも症例が少なかったのか0。

となっています。IC-PCとBa-tipについては、これは計算上そうなってしまうだけですが、年間100%を越えてしまっていますからね。

1年でほぼ確実に破裂する、ということになります。A-comの40%というのも極めて高いですよね。

MCA, ICPC以外の内頚動脈瘤も10%越えですから高いです。

つまり、giantの破裂率は極めて高いものが多く、ほおっておいたら確実に悲惨なことになるということですね。

しかしながら、これだけ大きくなってしまうと、治療もやはり難しくなります。

10mm越えた時点で難易度はあがるような気がしますね。

 

ここまで、大きさによって動脈瘤の破裂率はあがっていくことをUCASという日本人を対象にした研究結果から、

述べてきました。

また、これまで眺めてもらった数字から、3-4mmではA-comが最も破裂しやすく、5-6mm,7-9mmではIC-PC、

そして10-24mmではBa-tip、25mm以上ではIC-PCとBa-tipで極めて高い、というような部位による破裂率の違いも分かっていただけたとは思います。

 

しかしながら、破裂率を上げる要素は大きさだけではありません。

daughter sac、またはblebとも言いますが、

動脈瘤の一部がさらに、こぶ状になっているようなもの、つまり小こぶが大こぶについているようなものは、

破裂率が1.63倍になると、この研究では示されています。小こぶがあるとさらに要注意ということですね。

 

また、増大を示している動脈瘤の年間の破裂率は18.5%と極めて高かったとする日本からの報告もあります。

大きくなっている動脈瘤が危ないというのは間違いはなさそうです。

 

他にも、これは5mm以下の小型の動脈瘤に絞った、日本でのSUAVeと名付けられた研究の結果ですが、

高血圧、50歳未満、動脈瘤の多発という因子は、それぞれ、

破裂リスクが、7.93倍、5.23倍、4.87倍に上昇するという結果もあり、

これらの要素のある人の動脈瘤は小型だったとしても危険が高いと言えます。

 

未破裂脳動脈瘤には、このように、その破裂率に関して、様々なデータがあります。

今回紹介したものは全て、日本で日本人を対象に行われた研究の結果なので、

我々日本人の未破裂脳動脈瘤を考えるにあたっては、もっとも信ぴょう性が高いものとなります。

 

というのも、実は動脈瘤の破裂リスクには、人種差が結構あるんですね。

動脈瘤の破裂確率が高い国、人種、と考えられているのは、

日本とフィンランドです。

たしかに、いろいろなデータをみているとこの二か国のデータは、

他の国よりも倍以上破裂率が高いのです。

 

そういう背景からか、日本では未破裂脳動脈瘤の治療が、世界でも有数で盛んですし、

その水準も高いものとなっています。

 

さて、次回はこの未破裂脳動脈瘤の治療に関して、

クリッピングとコイリングについて書きたいと思います。

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