ある脳外科医のぼやき

脳や脳外科にまつわる話や、内側から見た日本の医療の現状をぼやきます。独断と偏見に満ちているかもしれませんが、病院に通っている人、これから医療の世界に入る人、ここに書いてある知識が多少なりと参考になればと思います。
*旧題「ある脳外科医のダークなぼやき」


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前回記事での予告の通り、

今回はカテーテル治療、つまりコイル塞栓術の弱点について、書きたいと思います。

 

ここまで記事を書いてきた中で、

コイル塞栓術には向いている動脈瘤と、そうでない動脈瘤があるということを書きました。

 

カテーテルの到達ルートが適しているか、と

動脈瘤の形がコイルの収まりがよいかどうか、の2つが大きな要素となります。

 

ただ、これらの要素が不利な場合には、よほどクリッピング術が難しいと考えられる動脈瘤以外は、

無理にコイル塞栓術にこだわる必要はないわけです。

そういう意味で、必ずしもすべての動脈瘤に適しているわけではなく、むしろ、様々な形の動脈瘤により広く対応できる、

ある意味での汎用性というものはクリッピング術の方が高く、コイル塞栓術の弱点と考えられるわけですが、

今回はあくまで、コイル塞栓術の適応として問題のない動脈瘤の場合と仮定した上での、コイル塞栓術の弱点を述べたいと思います。

 

それは、ずばり根治性です。

 

クリップではさみつぶし、強制的に血流を遮断するクリッピング術と比べて、

柔らかい金属コイルを充填する塞栓術は、血流の遮断性が明らかに劣ります。

 

クリッピング術の血流遮断は、クリップがしっかりと閉じたということを前提にすると、100%です。

再開通することも、まずありません。

 

しかし、コイル塞栓術ではそうはいきません。

治療直後から100%の遮断というのは、瘤内に全く隙間がなくコイルが充填され、

動脈瘤の入り口が完全にシールされるような状況でなければ成しえないからです。

 

実際には体積の30%以上もコイルが充填されれば、十分とされます。

 

体積の70%は隙間、という状態なのですが、瘤内にもぞもぞと、細い金属のワイヤーが張り巡らされているような状態、を想像してください。

このような状態では、血流は瘤内に入ってきますが、ところどころで金属のワイヤーに遮られるため、

瘤内の血流は停滞します。

 

血流が停滞すると、やがて停滞の顕著な部分から、血液は固まり始めます。

これは血栓化や、もしくは血液の凝固現象に由来するものです。

こういった血液の性質の助けを借りて、場合によっては瘤内は完全に閉塞します。

 

よって、動脈瘤内が完全に閉塞するか否かは、生体の反応に期待するところが大きいのです。

よく勘違いしている方がいらっしゃいますが、金属が完全に瘤内を埋め尽くして、閉塞するわけではありません。

むしろスペースの7割以上を埋めるのは、血栓で、その後に動脈瘤の入り口が、

これまた生体の反応で膜が張って完全に入り口が閉ざされれば治癒、ということです。

 

破裂を起こす可能性を減らすという意味では、瘤内が完全に閉塞せずとも、

ある程度瘤内の流速が制限されれば、短期的には破裂率はさがるでしょう。

 

しかし、長期的に考えれば、瘤内に血流が入らなくなる状況を作り上げなければ、

詰めたコイルがつぶれてしまったり(これをコイルコンパクションと呼びます)、

瘤が再増大したり、

また、その際には破裂する可能性もあります。

 

実際に破裂脳動脈瘤の研究では、

CARATと呼ばれる研究で、破裂動脈瘤治療後一年の再破裂確率が、

コイル塞栓術3%、クリッピング術1.3%、と結果が出ています。

しかも、コイル塞栓術は、画像上の完全塞栓(造影剤が入っていないように見える状態のことで、大抵、動脈瘤がまんべんなく、体積の比率で30%程度の分量で塞栓された状態のことです)に成功した例では0.6%ですが、

部分塞栓では15%とこの研究では述べられています。

 

つまり、中途半端にしかコイルが詰められなかった状態では、

再破裂の確率は高いんですね。

 

さすがに再破裂がおきてしまうと、

多くの場合が予後不良になってしまいます。

 

ですから、やはり、なるべく瘤内をきっちりコイルで埋め尽くしたい、

なるべく体積閉塞率を上げたい、ということになります。

 

また、再治療を要する確率に関しても、これも少し古い研究ですが、

BRATという研究では、破裂動脈瘤治療後6年以内の再治療の率について、

コイル塞栓術が16.4%、クリッピング術が4.6%と、やはりコイル塞栓術の方が再治療を要する場合が多いことになっています。

 

ただ、それでも破裂脳動脈瘤の治療について、

死亡率と後遺症による要介護はコイルの方が少ないという結果になったことは前回記載した通りですから、

再治療を要しても、ほとんどの場合で安全に再治療が出来ているということです。

 

根治性という問題に関して、

コイル塞栓術による治癒率が低くなる動脈瘤の要素がいくつかあります。

 

瘤の入り口が広いことなどももちろん、その代表的なものですが、

もっと単純に、大きな動脈瘤はコイル塞栓術による再発が多いことが知られています。

 

形がコイル塞栓術に向いていたとしても、

単純に10ミリを超えてくるような大きな動脈瘤は治癒率が低いのです。

 

球体は直径が倍になれば体積は8倍にもなりますから、

瘤の径が大きくなれば塞栓率を上げるために充填しなければならないコイルの体積も格段にあがります。

 

詰めなければいけない量があがるほど、

うまいことコイルを瘤内にまんべんなく充填するのが難しくなってきます。

 

結果として、塞栓率が低くなりがちなことが、

大きな動脈瘤のコイル塞栓による治癒率が低い原因の一つです。

 

他にも、血栓化という問題があります。

コイルが入る前から瘤内の一部が血栓で埋められている場合があり、

この場合、瘤内にがんばってコイルを充填したとしても、あとで元からあった血栓が溶けてしまうようなことが起こると、

そこのスペースに血流が入り込み、瘤が再発してしまうのです。

血栓化瘤が多いというのも大きな動脈瘤が根治しにくい要因ですね。

 

一方でクリッピング術にはこれらの影響はそれほどありません。

もちろん、クリッピング術も動脈瘤が大きい方が、後遺症のリスクはあがりますが、

はさみつぶすという治療の特徴上、やはり一度潰れた動脈瘤の入り口が開くことはまずありません。

 

そういう意味で、クリッピング術は根治性という意味では、

瘤の大きさや血栓化の影響などをコイルとは違ってうけないのです。

 

コイル塞栓術はメリットも多く、よい治療法なのですが、

この根治性という点で、未だに少し弱点があるというのも事実なのです。

 

ここまでは破裂脳動脈瘤について書いてきましたが、

次回からは未破裂脳動脈瘤について書いていこうと思います。

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