抗生剤が効かなくなる? 大腸菌の食中毒 | ある脳外科医のぼやき

ある脳外科医のぼやき

脳や脳外科にまつわる話や、内側から見た日本の医療の現状をぼやきます。独断と偏見に満ちているかもしれませんが、病院に通っている人、これから医療の世界に入る人、ここに書いてある知識が多少なりと参考になればと思います。
*旧題「ある脳外科医のダークなぼやき」

今は夏ですから、
怖い食中毒と大腸菌について書いてみます。

大腸菌といえば、残念なことですが、
ついこの間も焼き肉チェーンでの食中毒が日本でも起こりました。

これはO111と呼ばれる大腸菌の菌種でした。

Oなんたら、というのは大腸菌の菌種ですが、

大腸菌の菌種といえば、
もっとも一般に知られているのはO157ではないか?

と思います。

皆さんもO157という名前には聞き覚えがあるのではないでしょうか?

以前に日本で集団食中毒を起こし、
大きな問題になりましたよね。

亡くなった方もいらっしゃいました。

こういった大腸菌は、
腸管出血性の下痢をおこします。

具体的にはベロ毒素と呼ばれる、
大腸菌から産出される菌が原因なのですが、

このベロ毒素のせいで、
最悪の場合、重篤な腎障害となり、

死に至ります。

だからこそ、
大腸菌の食中毒は怖いんですね。

集団食中毒で不運にも亡くなるかたがいるのは、
このベロ毒素のせいです。

ところで、
大腸菌にも様々な菌種がありますが、

最近ヨーロッパで大規模な食中毒と被害を出した病原性のより高い菌種があります。

それはO104と呼ばれる菌種です。

まだ日本にはこの菌種は上陸していませんが、
O157を上回る毒性があるようですから、

もしも上陸して日本でも食中毒をおこせば大変なことになりますね。

これら大腸菌に対しては、
抗生剤治療が行われることも多いですが、

どうやらこのO104に対しては、
あまり抗生剤が効きません。

さらに、

抗生剤の種類によっては、抗生剤がより病態を悪化させることがあることは、
あまり知られていないことです。


シプロキサシンと呼ばれる抗生剤がよく大腸菌感染に対して、
投与されましたが、

実はこの抗生剤、より病態を悪化させます。

それは大腸菌をこの抗生剤が殺す時に、
多くのベロ毒素を放出させるからです。

死に際に多くの毒素を放出させてしまうのです。

これらを放出させないように菌を殺す抗生剤に、
カルバペネムと呼ばれる種類の抗生剤がありますが、

この抗生剤は未だに様々な感染症への切り札的な抗生剤です。

このカルバペネムに対する耐性を持った菌も出始めていますが、
特にグラム陰性菌と呼ばれる菌の部類にこの薬への耐性が出てしまうと、

人類はもはや有効な抗生剤を失ってしまいます。

大切に、正しく使わなければいけない抗生剤なのです。


ところで、
このグラム陰性菌という菌の種類は聞き慣れないものかもしれません。

実は、
今回のテーマになっている大腸菌も実はこの、

グラム陰性菌です。

特徴として、細胞膜が堅牢であるため、
グラム陽性菌と呼ばれる種類の菌よりも、

抗生剤が効きにくいのです。

グラム染色という手法で菌が染まらないため、
グラム陰性菌と呼ばれます。


グラム陰性菌である大腸菌の中で、
毒性の高い菌種がこのカルバペネムへの耐性をもってしまうと、

その大腸菌に対して、
直接的に有効な治療法がないことになってしまいます。


しかも恐ろしいことに、
このグラム陰性菌の場合はひとたび耐性を獲得すると、

それが他のグラム陰性菌の間にも広がるのです。

他にもグラム陰性菌には、
肺炎を起こす菌などがありますから、

こういった菌から大腸菌へカルバぺネム耐性が移るのです。

また、
逆に大腸菌から他の菌種に耐性が渡されることになります。

もしも毒性の高い大腸菌がすべて抗生剤の耐性を獲得してしまうと、
おそらく今よりも多くの人々が亡くなるでしょう。

しかも、
今現在、世界中の製薬会社は本腰をいれて新たな抗生剤を開発していません。

つまり、
カルバぺネムが効かなくなった場合、

代わりの抗生剤はないのです。

副作用が強くてあまりこれまで使われなかったような抗生剤であれば、
何種類かあるのですが、

あまり実用的ではないものばかりです。

抗生剤と病原菌の抗生剤耐性のイタチごっこが遂に、
病原菌サイドの勝利に終わる可能性があります。

感染症と言えば、
たいていのものは抗生剤で治る!というのが現代の常識でしたが、

すこし先の未来は違うものになっているかもしれません。

医療も進歩ばかりで明るい話題だけではないのです。


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