くも膜下出血について ② 再編版 | ある脳外科医のぼやき

ある脳外科医のぼやき

脳や脳外科にまつわる話や、内側から見た日本の医療の現状をぼやきます。独断と偏見に満ちているかもしれませんが、病院に通っている人、これから医療の世界に入る人、ここに書いてある知識が多少なりと参考になればと思います。
*旧題「ある脳外科医のダークなぼやき」

前回の話の続きですが、


ひとたび動脈瘤が破裂されると、再破裂を防がなければ命はない、


というところまで書きました。




初回の破裂で脳に大ダメージが残った場合は、


もはや再破裂を防ごうが意識が戻らず、植物状態なんてことになったりもするんですが、




破裂後の状態が比較的にいい人の場合、手術はほぼ必須です。




手術しなかった場合の再破裂率は最初の1ヶ月で20-30%と高く、その後も破裂の可能性があるので危険です。


しかも、


手術をしないとその後の治療もしっかりとできないのです。




この手術は、脳動脈瘤クリッピング術、という手術です。




脳外科の手術で、最も一般的なものである反面、




スリリングかつ高度な技術が要求され、


術者の腕によって差の出る手術になります。




具体的には破裂した動脈瘤のねっこにクリップをかけて、


血流を遮断し、


完全に止血された状態とする、


という手術です。




そう考えると単純なのですが、


イメージとしてはまさに爆弾処理に近いです。




まずは脳の動脈瘤があるとこまで脳の分け目をうまくかき分けて


動脈瘤に到達します。




これは動脈瘤の場所によっても難易度が異なりますが、


手術をするのならとりあえず動脈瘤まで到達しなければいけません。




動脈瘤の周りまで到達したら、




うまく動脈瘤の周りをきれいにして、


正常な血管をふさがないように動脈瘤だけにクリップをかけます。




おなかの手術と違うのは、


これらの作業を行う周囲が、決して壊してはいけないものだらけということです。




周りの脳を傷つければ、下手すれば麻痺だとかの障害がでますし、


途中で誤って血管を切ってしまったりすれば脳梗塞をつくることになります。




また、動脈瘤へのクリップがしっかりかかっていないと意味がありませんし、


逆に正常な血管の血流を遮断してしまっては、大きな脳梗塞になってしまいます。




術中に動脈瘤をいじっている際に再破裂させてしまえば、


止血ができないと死んでしまうこともあります。




要は相当なリスクのある手術です。




なので技術の差がはっきりとでます。


うまい人がやれば、周りを傷つけずに何の後遺症も残さずクリップをかけることができるでしょうが、




不慣れな脳外科医がやれば、


麻痺が残ったり、しゃべれなくなったり、記憶できなくなったり、


最悪寝たきりになったりしてしまいます。




そんなわけで、


脳外科医は最初は皆、前述した「手術がうまくいってもいかなくても寝たきり」


といったような患者様で初クリッピングを経験し、経験を積むことになります。




まるで、練習台のようだと考えると、恐ろしいようにも思いますが、


どんな有名な外科医だって必ず初めての手術はあるのです。




常に最高の治療を受けたいと皆が思う一方で、


最高の治療を可能とする技術を育むためには、必ず経験が必要なのです。




全ては、助かる人を助けられるようになるために、です。




さて、少し話しがそれましたが、


動脈瘤の手術はやはり熟練を要する訳です。




誰だってベテランに手術してほしいものです。




しかし問題は、


くも膜下出血となると、救急車で最寄りの病院に運ばれるため、


脳外科医を選ぶことはできないのです。




再破裂さえなければ、


発症から3日以内の手術であれば予後にあまり影響ないということになってます。




なので、


本当に望めば、発症してからゴッドハンドのいる病院に運ぶことも不可能ではないように思えますが、


実際は集中治療が必要な状態で患者を運ぶようなことは滅多にしません。




なので結局は搬送された病院で手術を受けることになるのがほとんどです。


つまり、くも膜下出血になった場合は、


運ばれた病院にどんな脳外科医がいるかで運命が変わってしまうように思います。




これはどの病気でも同じことでしょうが、


頭の病気の場合、


麻痺が残るかどうかだとか、かなりシビアな問題が起こる可能性が他の病気より高いのでやはり怖いですね。




皆さんの街の近くの病院にはいい脳外科医がいるでしょうか?




もちろん、こんな病気になる方はほんとに一部なので、


一般的には気にもされないことです。




なので近くの病院の医者の実力なんてほとんど誰も認識していません。




だから運ばれた病院の医者を信じるしかないわけです。


これって結構怖いことですよね。




医療関係者から客観的に見てみると、


自分の勤めている病院であったとしても、この病気でここにはかかりたくないな、


というようなことは沢山あります。




病気になったときにいい医者に巡り合うというのは本当に大切なことなんだろう、


と痛感することも多いです。




クモ膜下出血の話をしてきましたが、




動脈瘤の手術で医者をえらぶには、


未破裂の状態で脳ドックで発見しておくしかありません。




そうすれば、手術をして欲しいと思える医者を選ぶことができます。




破裂してしまったら、


もうある程度運命を天に任せるしかないですからね。




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