自分が75歳になったら、どんな生き方をしているだろう。

ここ2〜3年先の見通しすら立たない自分には遥か彼方すぎて全く想像がつかない。

けれど、こうありたいなぁ、というものはある。やっぱり健康で毎日活発に動いていたい。笑顔で暮らしたい。老眼鏡をかけながら本を読み続けたい。お気に入りのマイ書斎にこもって…。うーん、そんなところか。

身近にいる75歳に近い人間はうちのばぁちゃんだが、ばぁちゃんはめちゃくちゃ元気で、思い込みが激しい。

ひさびさに実家に帰ったとき、「(糖質制限しているから)お米は食べない」と断ったのに、何が何でもお米を食べさせようとする。そしてお腹いっぱいだと言うのにおかわりさせようとする。

ばぁちゃんの中でわたしは10代の食べ盛りの胃袋と同じだという思い込みがあり、こっちも断りきれずに食べ、東京に戻って悲鳴をあげた。

これらのことは孫への愛情ゆえの行動と言われればそうかもしれない。
そういう意味で、うちのばぁちゃんは「マジカルグランマ」かもしれないなぁとふと思った。

柚木麻子『マジカルグランマ』は、75歳の元女優で主婦の正子が、映画監督の夫の死をきっかけに、自分の殻を破りまくる物語だ。

正子は長年主婦をやっていたが、70代にして携帯CMのおばあちゃん役の座を射止め、一躍時の人となる。
しかし夫の死をめぐる言動がきっかけで大炎上し、優しいおばあちゃんの代名詞だった正子は世間からおおいに嫌われてしまう。

仕事を失い、夫は借金という負の遺産を残し、老後の蓄えなどほとんどない正子は八方塞がりのような状況になる。

さらに炎上のどさくさで夫に師事していたという謎の女が正子の家に住み着き、正子は頭を抱えるのだが、とあるきっかけで正子は思わぬ方向で力をつけ、才能を開花させていく…。

この物語が描いているのは、75歳のおばあちゃんの思わぬ「快進撃」であり、そして快進撃の根底にあるステレオタイプなものの価値観への問題提起だ。

正子が嫌われた原因は、「優しいおばあちゃん」というイメージが損なわれてしまったからだった。
夫に冷たく、自分のことしか考えない利己的なババア。そんな感じで正子は悪の権化のように祭り上げられてしまったのだった。

正子はそれを逆手に取って悪役オーディションに挑戦するものの、世間からの評判が悪いばかりに軽くあしらわれ、セクハラ発言まで受けてしまう。

しかし世間からどう思われていようと、生きている限り生活をしていかなくてはならない。
正子は腹を決め、ディズニーランドから着想を得て「快進撃」を起こすのだが、そのきっかけとなったのが「マジカルグランマ」という造語だった。

「マジカルグランマ」とは、物語内に設置される「都合のいいおばあちゃん」役のことだ。孫に無限の愛情を注ぎ、なにか困っていたときには魔法使いのように助ける存在。

おばあちゃんとて人間だ。そうじゃない感情が沸くこともあるだろうに、「マジカルグランマ」のイメージが強すぎて、その振る舞いから外れた正子は嫌われてしまったのだった。

しかしこれは「マジカルグランマ」に限った話ではない。
誰しも「こうあるべき」というステレオタイプの価値観にとらわれ、葛藤した経験があるのではないか。

この物語は正子の細かな心情描写を通して、「マジカルグランマ」から脱皮し「柏葉正子」として人生を歩もうとする様が描かれる。

正子は野心と情熱に満ちたしたたかなおばあさんとしてどんどん力をつけていく。
世間で「こうあるべき」とされるものに素直に疑問を感じ、新しい考えも積極的に取り入れ、正子は「快進撃」の手をとめず、ガンガン走り抜けるのだ。

正子さんのモーレツなエネルギーに読んでいるわたしも乗せられた。読み終わって、胸がめちゃくちゃスカッとして、元気と勇気をもらった。

読み終わり、ああ、なんて愉快な物語だろう! と心から良い気持ちになった。

そして、時代は変わったのだ、ということも強く感じた。
昔なら「こうあるべき」という価値観が尊重されることで社会が保たれていた部分があったかもしれない。しかし、いまは2019年で、新たな時代を迎えたばかりなのだ。

わたしも正子さんのように死ぬまでパワフルで、野心を持って生きていきたい。
そう心から思った傑作だった。

最初から最後までエンタメ性の高い、まさにディズニーランドのアトラクションのような物語でした。

最後の最後にまさかあんな展開になるなんて…(気になる人はぜひに!)。

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