東京春祭 クルックハルト、ブリッジ、ワインガルトナー | 今夜、ホールの片隅で

今夜、ホールの片隅で

東京在住クラシックファンのコンサート備忘録です。

🔳N響メンバーによる室内楽(4/18東京文化会館小ホール)

 

[ヴァイオリン]松田拓之、山岸 努

[ヴィオラ]村上淳一郎、三国レイチェル由依

[チェロ]辻本 玲、中 美穂

[コントラバス]稻川永示

[オーボエ]吉村結実

[ピアノ]津田裕也

 

A.クルックハルト/葦の歌 作品28[吉村・村上・津田]

F.ブリッジ/弦楽六重奏曲 変ホ長調[松田・山岸・村上・三国・辻本・中]

F.ワインガルトナー/ピアノ六重奏曲 ホ短調[松田・山岸・村上・辻本・稻川・津田]

 

これを逃したら次にいつ聴けるか分からない秘曲を集めたプログラム。作曲年代は順に1872年、1912年、1902年だから、広く後期ロマン派の流れにある未知の作品群である。

 

クルックハルト「葦の歌」は、オーボエ、ヴィオラ、ピアノという珍しい編成で書かれた三重奏曲。19世紀前半のオーストリアの詩人ニコラウス・レーナウの同名詩集に想を得た、5曲から成る幻想小曲集。開演前には、この曲に絞った詳細なプレトークがあった。3人の奏者が登場し、レーナウの詩がどう音楽で表現されているのかを、実際に具体例を演奏しながらヴィオラの村上さんが解説する。楽譜にも書かれているというドイツ語の詩文の対訳も配布された。

 

これが非常に有効で、プレトークと併せて実質的なメインはこの曲であり、一番気に入ったのもこの曲だった。オーボエ、ヴィオラ、ピアノそれぞれの楽器の美質がストレートに活かされた、言葉の無い寸劇を観ているような「音詩」にして、濃密なファンタジーの情景を描いた「音画」。極上の演奏で出会えたのも幸運で、なかなかこの編成が揃う機会は無いだろうが、ぜひまた聴いてみたい逸品。

 

ブリッジの弦楽六重奏曲(ヴァイオリン2、ヴィオラ2、チェロ2)は、約30分を要する3楽章構成。全ての楽器がずっと鳴っている印象で、音が密集していて力感に充ちた楽想なのだが、次第にその「圧」でお腹いっぱいになってくる。

 

指揮者としても高名なワインガルトナーのピアノ六重奏曲は、弦楽四重奏にコントラバスとピアノを加えたユニークな編成。全4楽章で40分超という大曲で、親しみ易いメロディーが随所に現れるものの、全体的な構成力に欠け、正直長いな…と感じてしまった。俗っぽいビッグバンド風な場面があるかと思えば、しばしばピアノと弦のデュオになり出番の無いパートが多かったり、この編成である必然性も…?

 

威勢がよくて、強引で、見栄っ張りで、夢見がちで…今では時代遅れの表現だが、音楽の印象がとても「男性的」(奇しくもこの曲だけ全員男性奏者)。思うに男性的なるものをとことん追求したのが、後期ロマン派という時代の一側面だったのかも。ともあれ、村上さんも語っていたが、知られざる作品を紹介するのも演奏家の使命であり、ハルサイらしい興味深いプログラムでした。