遺伝子組換え作物の栽培が始まると

国内では遺伝子組換え作物の商業栽培はまだされていない。

でも、栽培を禁じる法律があるわけじゃないんだ。

農水省には
いろんな遺伝子組換え作物の栽培許可申請が出されていて、
既にたくさん認可されている。

でも試験的に栽培されているものはあっても、
まだ商業栽培はされてい ない。

それは、栽培しても売れる見込みがないからだ。

国産の大豆は輸入大豆よりも値段が高くなる。
それを油の原料にしちゃうんじゃ割が合わない。

でも、遺伝子組換え大豆でつくられた豆腐や納豆や豆乳は、
そう表示されるから誰も買わない。
誰も買わないものをつくってもしょうがないから、
誰も栽培しない。

つまり遺伝子組換え作物の栽培を食い止めているのも、

やはり「表示」だと考えていい。

表示義務がなくなれば、
みんな知らずに遺伝子組換え大豆の豆腐や
納豆を食べるようになる。
そうすれば遺伝子組換え大豆はもっと売れるようになり、
国内での栽培はまたたく間に広がるだろう。

でも、遺伝子組換え作物の栽培は、
いったん始めてしまうと、取り返しのつかないことになる。

花粉は風にのって広がるものだからだ。

在来のナタネをつくっていても、
隣の畑から遺伝子組換え ナタネの花粉が飛んできたら、
それを受粉して交雑してしまう可能性が高い。
在来の菜種を栽培している農家にとってはいい迷惑だ。

こんなとき、モンサント社はどうするか?

賠償する?

謝る?

とんでもない。

逆にその農家を訴えるんだから、いい性格だね!

カナダのナタネ農家、

パーシー・シュマイザーさんの例を紹介しよう。

シュマイザーさんは
広大な農場で何十年もナタネを栽培してきた。

丈夫でたくさん収穫できる品種を自分で長年かけて育ててきたんだ。
遺伝子組換えナタネなんて、栽培しようと思ったこともない。



そんなある日突然、
シュマイザーさんは手紙を受け取った。

手紙には

「あなたは我がモンサント社の
遺伝子組換えナタネを無断で栽培している。
特許使用料を払うように。 もし払わなければ裁判所に訴えるぞ」
と書かれていた。

まるで脅迫状だね。

モンサント社は自分が開発した組換え遺伝子を

「知的財産」だとして
「特許権」を主張している。

でも、生命を構成する遺伝子というものに
特許権を主張するなんて、自然に対する冒涜じゃないかい?
が、その話はひとまず置いておこう。

シュマイザーさんは自分の畑に
遺伝子組換えナタネのタネなんか撒いてない。
よその畑から飛んできた花粉で交雑が起こったということだ。

しかしなんでモンサント社にはそのことがわかったのか?

それはモンサント社の
私設警察モンサント・ポリスが
勝手にシュマイザーさんの畑に入って、
ナタネを盗み出して分析したからだ。
泥棒しておいて、人を訴えるんだから、

まさに盗っ人猛々しいとはこのことだ。

シュマイザーさんは

その手紙を読んで頭に来た。

誰が特許使用料なんか払うものか。断固闘うぞ!
と裁判に打って 出たんだ。

でも、裁判の行方は
えてして弁護士費用をどれだけ用意できるかで決まってしまうもの。
巨大多国籍企業 に一介の農家は勝ち目がなかった。

シュマイザーさんは裁判に負けてしまったんだ。
「モンサント社の品種が
一定程度畑にあれば、特許権侵害に当たる」

「シュマイザー氏の 畑の収穫物も、種子も、
すべてモンサント社のものであ る」という判決が下った……。

でも、
それでもシュマイザーさんはめげなかった。

新たに 別の裁判を起こして、逆にモンサント社を訴えた。

「わたしの土地はわたしの財産だ。
わたしがこの土地の税金も 払ってるんだ。
そこにおまえらの財産を放置するとは何事だ。
おまえらの責任で片付けろ」

とね。もっともだよね!

さすがシュマイザーさん。そして、最終的には裁判で和 解に持ち込めた。

とはいえ、
シュマイザーさんほど頭が切れ、
裁判にかける 費用も時間もあり、
ヤクザ並みの脅しやありとあらゆる嫌がらせに
負けない根性もある、
というスーパーマンのような農家は少ない。

モンサント社は
アメリカやカナダで何百件もの農家を

特許権の侵害で訴え、

たくさんの農家がそのせいで破産しているよ。