介護・オブ・ザ・ヴァンパイア(第08話/ラブホテル)
博士は血液パックを黒いバッグに入れ、どうせ自分は透明人間化しているからと、ぶらぶらと警備室に向かった。
すると………警備室の横で女子高生ヴァンパイアが三角座りをして顔を伏せていた。
「まだ用があるのか」
「私とした事が………私は障害物があると瞬間移動が出来ません。この警備室前のドアは貴方が持っているカードでしか開かないのでした。
怪力で開けられない事もないのですがその後、全警備員を相手しながら出口を探すのは骨が折れます………」
「まあここをぬけても………カードがいる場所が後1箇所ある。もう瞬間移動は手間がかかるから一緒についてきなさい。防犯カメラの映像も元に戻さないと」
いつの間にか女子高生ヴァンパイアは博士の白衣の袖を持っていた。
「………どこかを持っておかないと。飛んでいってしまいます」
二人は研究所を出た。
「ちょっとそこの林に入ってください」
「何だ」
「着替えます。こんな血まみれ、捕まります」
女子高生ヴァンパイアはブレザーを脱ぎだした。博士はハッと背を向けた。
「今更どうしたのですか(笑)。介護の女ヴァンパイアさんの身体を拭いてらっしゃるのでしょう。交わる事もない訳だし見ても一緒だと思いますが」
博士は思った。
この女子高生ヴァンパイアは介護の女ヴァンパイアに比べて断然、読心術が強い。
逆に介護の女ヴァンパイアは性フェロモンがとても強い。
あ、しまった。
「………そうですか。理解力がありますね。私の読心術は脳内で映像化できます。だからもう貴方に介護を受けている女ヴァンパイアさんの顔は分かりました」
女子高生ヴァンパイアは服を着替え終わった。
「では行きましょう」
「どこにだ」
「何を言っているのですか。カラオケに行くのですよ」
2人は繁華街に繰り出した。居酒屋、クラブ、キャバクラ、ゲームセンター、カラオケ………博士は借りてきた猫状態だった。
「ここにしましょう。………というか白衣を脱いでください。あまりにもマッチしているので言い忘れていました」
二人はカラオケの小さな個室に入った。
女子高生ヴァンパイアは最近?の歌をずっと歌っていた。
靴を脱いでソファに立って踊っていた。楽しそうだ。微笑ましい。
末娘がいたらこんな感じだったかもしれない。しかし博士はふと思った。
………今、自分はセーフティーゾーンにいる。
自分の血はヴァンパイア達にとって猛毒だし自分にはもう奪われる家族もない。
そしてその安全な場所から人間の敵を助けている?
急に大きな罪悪感が襲ってきた。
………でも今はつまらない顔をしてあげたくない。あ、これも読まれるか。
「内田博士さんも何か歌いましょう!」
「いや………。名前もお見通しか………最近の曲は………。えーと、というか私は音痴だ」
「これなら分かるでしょ!」」
『〜むーてきの♪〜アイドルっ♪』
「これは聴いた事がある。一緒に歌うぞ」
「むてーきのお♩あいどーるー♩」
「本当に音痴なのですね………」
2人はカラオケボックスを出た。もう1時だというのに街は眠らない。
「もうタクシーしかないな。君も寝床があるだろう。じゃあ帰ろうか」
「何を言っているのですか。ラブホテルに行くのですよ」
(つづく)