2005年11月06日

浅田次郎 『プリズンホテル』

テーマ:その他の娯楽小説
浅田 次郎
プリズンホテル


うらぶれた温泉旅館、「奥湯元あじさいホテル」は、通称「ブリズンホテル」と呼ばれる、いわくつきのホテル。


前のオーナーは、悪徳の金貸しに騙されて、旅館も含めた全財産を失い、絶望して、旅館の一室で、一家心中。

現在のオーナーは、金貸しに渡っていた旅館を巻き上げたヤクザの親分。

支配人は、長年勤めた名門ホテルをお払い箱にされた「超」がつく愚直なホテルマン。

番頭以下の従業員は、ヤクザか、出稼ぎのフィリピン人。
おまけに、宿泊客の大半は、極道たちの慰安旅行か、務めを終えて出所したばかりのヒットマンといった面々ばかり。


まともでないホテルに、まともでない従業員がいて、まともでない客たちばかりが来る。

この小説は、そんな一癖も二癖もある個性派揃いの登場人物たちが織り成す珍騒動の顛末紀である。


浅田作品では、『きんぴか』と同様、コミカルな笑いをベースにした滑稽味のある作品に仕上がっている。

こういうユーモア溢れる小説こそが、浅田次郎の本来の持ち味のように思うのだが。

今では、すっかり大家のようになっちゃったからな~。



切れ味: 良


お勧めの関連書籍

浅田 次郎

プリズンホテル〈1〉夏

浅田 次郎

プリズンホテル〈2〉秋

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プリズンホテル〈3〉冬

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プリズンホテル〈4〉春

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2005年10月14日

重松清 『ビタミンF』

テーマ:その他の娯楽小説
重松 清
ビタミンF

平凡な日常生活に起きた、ちょっとしたさざ波に揺れる家族の風景を描いた短編集。



どの作品も、四十前後のオヤジたちが主役である。

たしか、孔子だったか、「男、四十にして惑わず」と述べていたように思うが、実際には、若くもなく、かといって、枯れてもいない、なんとも中途半端な時期にあたるのが、この年頃だ。

また、妻子持ちであれば、息子や娘は、ちょうど思春期の頃で、何かと家族に波風も立ちやすい時期でもある。

「四十にして惑わず」とばかりに悠然と構えるのとは、程遠いのが実情ではないだろうか。


で、この作品集は、どれも、これといって、大きな事件が起こるわけではない。

家族の日常に、ちょっとした厄介な出来事がもちあがるだけである。

端から見れば、取るに足らない事かもしれない。

でも、当事者である家族にとっては、放置しておけば、家族の間に亀裂が生じかねない問題なのだ。

ズバッと解決するには、繊細すぎる微妙な問題ばかりだから、まことに厄介極まる。

そして、各作品に登場する、どの中年オヤジたちも、出来した事態にうろたえ、翻弄される。

ここには、毅然たる姿をした理想の父親像は、一人として出てこない。

どれも不甲斐なくて、不器用なオヤジたちばかりだ。

だからこそ、親近感が沸くのを禁じえない。

登場人物と一緒になって、憤ったり、自分の無力感にがっかりしたり、ささやかな希望光を見出したり。



読後感は、ちょっぴり元気になったような――そんな気がする。

本のタイトルになっているように、ちょっと効き目のある読むクスリといったところか。


どの作品も良質だと思うが、私的には、クラスで除け者にされ、孤立している娘の痛々しい心情と、その事実を知った親の哀しみを描いた「セッちゃん」が、とりわけ秀逸でありました。


切れ味: 可

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2005年07月25日

金城一紀 『GO』

テーマ:その他の娯楽小説

金城 一紀
GO

「在日」という二文字の言葉には、重い重い響きがある。
したがって、そのレッテルを負わされた人たちの中から文壇デビューした作家たちも、それを色濃く作品に投影させてきたように思える。
読む側も、それを過剰に意識し、身構えるようにして、あるいは、腫れ物に触るようにして、彼らの作品に接してきたのではないだろうか。


そんな暗黙の風潮、呪縛に風穴を空けたのが、直木賞を受賞して話題になった本書だ。


「在日」韓国人で、日本の私立高校に通う主人公と、日本人の女子高生との恋愛を軸に物語は展開される。
青春小説とでもいうべきジャンルの作品。


勿論、ここでも、「在日」問題は、重用な主題にはなってはいる。
が、そこには、絶望、閉塞感、呪詛といったものの代わりに、からりと乾いた明るさと、何物にも縛られまいとする奔放さと、若々しい希望がある。


ということで、「在日」文学に対して、世間が貼り付けた既成概念を突き崩した作品だと思うのだが、そんなお硬いことを抜きにして、娯楽小説として、十分に愉しめる。


主人公もそうだが、脇を固めるキャラたちの個性も光っている。
特に、主人公の「オヤジ」は、一見、粗暴でありながらも愛すべきキャラとして、際立った存在感がある。
読後の爽快感もグッドでした。



切れ味: 良

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2005年07月23日

石田衣良 『波のうえの魔術師』

テーマ:その他の娯楽小説
石田 衣良
波のうえの魔術師

金融クライムノベルとして愉しめる作品。


物語の時代設定は、世界全体が金融危機に揺れた98年頃。
その春、三流私大を卒業したものの、就職先のないまま、自堕落な生活を続けていた無職の青年に、株取引では百戦錬磨の老相場師からスカウトの手がかかる。
老相場師が狙うのは、金融危機に揺れる巨大銀行。
風説の流布、ホームレスを使った銀行預金の取付騒ぎなど、老相場師は、狡猾極まる手段を駆使して、銀行本体を揺さぶる。
その片棒を担いだ主人公の青年も、次第にマーケットの世界に魅せられていく。
そこに、当時の世相、特に経済金融問題の話題を絡めながら、物語は早いテンポで進行する。

が、最後の手仕舞いの後、主人公には、思わぬ事態が待ち受けているあたり、ラストまで緊張感の持続した作品に仕上がっている


ところで、最近は、経済小説が大流行のようである。
大抵の場合、筆者自身が属する業界、業種を舞台にしたインサイド・ストーリーに類するものだ。
確かに、その業界・業種に精通していなければ書けないであろう情報が盛り込まれていて、興味深いのだが、その分、肝心の小説の方が疎かになっているものも多い。
つまり、小説の構成、描写の工夫よりも、情報の説明に割かれる分量が多いため、実用書を読まされている気分になってしまうのだ。
経済小説と銘うっている以上、まずは小説としての完成度を追求すべきであり、その点で、水準に達している作品が少ないのは、残念である。


その点で、本書は、文章も垢抜けているし、経済、犯罪、あるいは青春小説と、多面的でありながら、作品全体のバランスもとれていると思う。


切れ味: 可


お勧めの関連書籍

石田 衣良

池袋ウエストゲートパーク


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2005年06月07日

乃南アサ 『結婚詐欺師』

テーマ:その他の娯楽小説
著者: 乃南 アサ
タイトル: 結婚詐欺師〈上〉

プロ(?)の結婚詐欺師と、それを追う警察の攻防戦。
テレビドラマにすれば、そこそこの視聴率は、とれるかもしれない。


作品の肝は二つある。


一つは、文字通り、結婚詐欺師の手練手管を詳細に描写していること。
乃南は、かなり取材に時間を費やしたのではないだろうか。
そう思えるほど、この詐欺師が、女性を騙す手口は巧妙を極め、お見事に尽きる。


二つめは、この詐欺師の犯行を捜査している刑事が、主要人物として登場するのだが、その刑事の元恋人が、この詐欺師と付き合い始めてしまうことである。
まるで、手抜きドラマのようなシチュエーションであるが、それによって、単線的であった物語に、複雑な色合いが帯びてくる。


とはいっても、小説自体に意外性があるわけではない。
まあ、こんなもんだろうなという予想通りに物語は進行していく。


このテーマ、内容で、文庫本の上下二巻という長編仕立てにする必要があったのか、いささか疑問符がつく、というのが正直な感想。


読了後、なんの感慨も残らなかったが、小難しいことを四の五の言わず、読んでいる間だけ愉しめればいいという人には、お勧めである。



切れ味: 可

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2005年05月18日

篠田節子 『女たちのジハード』

テーマ:その他の娯楽小説
著者: 篠田 節子
タイトル: 女たちのジハード

性格も、人生観も異なる五人の女性たちの悪戦苦闘記。



恋愛、家庭、仕事、生活設計、将来……。

悩みは共通しても、その向き合い方には、自ずと、彼女らの個性が、強く現われる。

そんな悩める女性たちの成長物語は、読者の、特に、登場人物と同年代の女性層の共感を呼びそうに思える。

気分が、へこんでいる時などに読めば、元気を与えてくれるような小説である。


ただ、物語に意外性があるわけではない。

予定調和的なのである。

ストーリーといい、配役といい、よくありがちなテレビの連続ドラマを観ているようなのだ。
そこに、物足りなさが残った。

切れ味: 可

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2005年05月03日

浅田次郎 『きんぴか』

テーマ:その他の娯楽小説
著者: 浅田 次郎
タイトル: きんぴか

ピカレスクロマン(悪漢小説)と謳っているが、むしろ、コメディタッチの小説といえる。
その面白さにかけては、数ある浅田作品の中でもナンバーワンといえそう。


生い立ちも、キャリアも、性格も異なるが、いずれも現在の境遇は共通している、社会からドロップアウトした三人の男たち。
彼らが、まるで運命の糸で手繰り寄せられるようにして集まってくるところから物語は始まる。

この最強にして最悪のトリオが遭遇する珍妙な出来事の数々を、活劇仕立てで描いている。


三人のキャラは、どれも個性的であるが、中でも、自衛隊駐屯地でピストル自殺を図るも、見事に死に損ねた元自衛隊員の快男児、通称「軍曹」のキャラが光っている。
特に物語の後半、彼が、故郷の鹿児島に帰郷するエピソードを描いた「チェスト! 軍曹」の章では、実家で待ち受けていた彼の兄、親父、祖父、曽祖父などが次々に登場。
軍曹も豪快極まる男であったが、彼らは、更にその上をいく面々ばかりで、そこで繰り広げられるドタバタ劇は爆笑ものである。


浅田次郎には、読者を笑わせるツボも、泣かせるツボも心得ている洗練された職人作家のイメージが強い。
たしかに浅田次郎の小説はうまい。
だけど、直木賞受賞後は、なんだか寸法の決まった型の枠にはめ込まれたような作品が多くなっている気がする。
洗練はされているけれども、枯れたというか、すっかり大人しくなってしまった。
そこに、一抹の物足りなさがある。


その点、まだ、作家的知名度が低かったころに書かれた『きんぴか』には、ストーリーも文章も洗練からは程遠いけれど、型からはみ出してしまうエネルギーが満ち溢れている。
こんなハチャメチャな小説をまた書いてくれたら、読者としては即座に飛びつくけれど。
どんなもんでしょうか?



切れ味: 良

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2005年05月01日

梁石日 『夜を賭けて』

テーマ:その他の娯楽小説
著者: 梁 石日

タイトル: 夜を賭けて


終戦から十年たった昭和三十年頃、旧帝国陸軍の大阪造兵廠があった跡地を舞台に、極限状況に置かれた在日コリアンたちが、跡地の地下に埋蔵されている屑鉄を、掘り出して換金するために、自称アパッチ部隊を組んで、夜になると跡地に潜入し、暗躍する。


物語は、屑鉄といえども国有財産であるとして、取り締まりを強化する日本の警察と、アパッチ部隊との攻防戦を経て、そのアパッチ部隊の一人であった金義夫が、まったく別件の事件の濡れ衣で立件され、長崎にある大村収容所に収監、そこで、凄惨な目に遭わされつつも、恋人の初子らの奔走によって、無事、出所されるまでの模様を描いている。


在日であるというだけで、理不尽な扱いを受け、夢も希望もないままに、やむなく盗賊部隊となって、国家と対立せざるをえなかった在日コリアンたちの極限状況の描写は圧巻である。


金義夫は、物語全体を通しての主役というわけではない。

物語の前半は、アパッチ部隊そのものが主役であり、その面々による悪戦苦闘の模様が、時に凄惨に、時に自虐的なまでにコミカルに描かれている。
その日暮らしの生活に追われる彼らは、それぞれが少人数の仲間ごとにアパッチ部隊を組み、夜になると、跡地に潜入して屑鉄拾いに精を出す。

金義夫らは、少しでも競争相手のアパッチたちを出し抜こうと、あの手この手を考えるのだが、いつも裏目に出て、逆に出し抜かれてばかりいる。その情けないまでの間抜けさぶりには、笑いを誘われる。


梁石日(ヤン・ソギル)は、在日コリアンたちの生態と、常に彼らを抑圧し、隠蔽しようとする日本の恥部を鋭く抉ることをライフワークとしている作家だが、この作品でも、その主題を貫いてはいるものの、、時に垣間見せるユーモラスな筆致によって、可笑しみすら感じさせる作品に仕上げている。





切れ味: 可


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