2006年07月14日

中島敦  『李陵・山月記』

テーマ:純文学
中島 敦
李陵・山月記

中島敦の名作四編が収められた短編集。

どの作品も、漢文の素養を十二分に駆使した重厚な文体と、緻密な構成になっている。

「山月記」「名人伝」「弟子」「李陵」――個人的には。「李陵」が一番印象深かった。

この作品の主人公は、題名にもなっている李陵であるが、脇役で登場する司馬遷がいい。

『史記』の作者である司馬遷が、匈奴との戦争で捕虜になってしまった漢の将軍、李陵の立場を擁護する論陣をはり、時の皇帝、武帝の逆鱗をかい、宮刑(性器を切り取られること)という屈辱的な目に遭わされたことは、司馬遷自身が『史記』の中でも記しており、よく知られている。

硬骨の人であった司馬遷にとって、この宮刑は、心情的には、死を賜るよりも、はるかに酷烈なものであったろう。

その司馬遷の心の葛藤と、やり場のない怒りを、孤独な執筆作業へと駆り立てていく心情が見事に描かれている。

後世に遺るような大事を成す人は、多くの場合、逆境の中、血を吐く思いをしながら、事業を行っていた、ということの典型例であろう。

順風満帆な人生からは、大したものは生み出されない。

しかし、大事を成すには、絶えることのない迫害、屈辱、逆境が待っている。

人生とは何か、生きるとは何か――といった小難しいことを考えさせられる小説である。


切れ味: 優


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2006年05月25日

村上春樹  『ノルウェイの森』

テーマ:純文学
村上 春樹
ノルウェイの森〈上〉

『ノルウェイの森』は、いわずと知れた村上春樹のベストセラー小説。

多くの人が読んでいることでしょう。

未読の方は、アマゾンなどに、ブックレビューは、腐るほどあるでしょうから、そちらをご覧ください。


さて、ご存知のように、この作品には、直子と緑という二人のヒロインが登場します(厳密にいえば、もう一人、独特の存在感を放つ年上の女性がいるので三人だともいえるのですが)。


この二人のヒロインについて、以前、このブログで取り上げた福田和也の『悪の恋愛術 』という本の中で、興味深い事柄が書いてあった。

福田が、大学の講義で、学生たちに、直子と緑のどちらが好みであるか、というアンケートを施したところ、男女できれいに好みが分かれてしまったというのだ。

男子学生は、大抵が緑であり、女子学生は直子を支持するというものだそう。

で、福田は、この事につき、なぜ、若い男性が、緑のような女の子を好み、逆に女性は、直子に共感するのかについて、持論を述べているが、面倒なので、それは割愛。

興味のある方は、本を読んでみてください。


で、私も、若い男子学生と同様に、どちらかといえば陰性の直子よりは、陽性の緑に魅かれるのですが、これって、歳を喰っている割に、精神的には成熟していないということでしょうか。

ちょっと複雑な気分です。

そうはいっても、緑の方に魅力を感じるのだから仕方がない。


ところで、皆さんは、直子と緑、どちらの女性に魅かれますか?


切れ味: 良


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2005年08月23日

 芥川龍之介 『蜘蛛の糸・杜子春』

テーマ:純文学
芥川 龍之介
蜘蛛の糸・杜子春

学生の頃、夏休みに出される課題図書として読んだ人も多いのではないだろうか。

芥川が得意とした説話を下敷きにした幻想的な作品を中心に、十篇の短編が収められている。
児童文学ということを意識してか、芥川作品にしては、明るい色彩を帯びたハートフルな物語が多い。
中でも、仙人と青年の交流を描いたファンタスティックな物語『杜子春』は、何度読んでも飽かせない逸品だ。
仙人に弟子入りして、不思議な仙術を会得するために、あらゆる試練に耐えた杜子春も、母親の無償の愛を知って、遂に仙術を諦めてしまう。
個人的には、芥川作品の中で一番好きな小説だ。

児童文学とはいっても、この短編集に収められた諸作品は、小説としての完成度が高いものばかり。
いい歳をした大人の皆さんも、学生だった頃に戻った気分で、いま一度読み返してみるのも悪くはないと思う。
歳月を重ねた分、以前に読んだ時とは違った感想を抱くのではないか。

それにしても、芥川龍之介の小説は、晩年の作品を除けば、どれも面白いものばかりなのに、芥川賞の受賞作品は、総じて退屈な作品が多いのは、何故だろう?

切れ味: 優


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2005年05月30日

村上春樹 『国境の南、太陽の西』

テーマ:純文学
著者: 村上 春樹
タイトル: 国境の南、太陽の西

唯一、お互いに分かり合える、補い合える存在だと確信していた幼なじみの「島本さん」。
主人公の「ハジメ」は、島本さんと離ればなれになって以来、ずっと、何かが足りない欠落感を抱き続けたまま生きてきた。


現在の年齢は、三十七歳。
ジャズを流す上品なバーを経営するオーナーであり、よき夫であり、よき父親である。
そこそこの贅沢も愉しめる。
傍目には、順風満帆な人生――。


しかし、ある日の夜、突然、彼のジャズバーに、島本さんが現われる。
二十五年ぶりの再会。
彼は、島本さんと邂逅することで、この二十五年の間に喪失したものの大きさに気付かされる。
その時から、順調に見えた人生の歯車が、微妙に狂い始めていく。


もしも、二人の失われた時間を取り戻すことができたなら。
あるいは、別の人生の選択肢があったかもしれない。
それが、本来、自分が歩むべき人生だったかもしれない。
しかし、自分の周囲の人間を傷つけてまで、現在の生活を壊すのは、ためらわれる。


そして、島本さんは、現われた時と同じように、突然、彼の前からぷっつりと姿を消してしまう。
一人、取り残された彼の前を、無機質な時間だけが、流れていく。


人生のやるせなさを感じさせる物語である。
そして、スクリーンに映し出される映画を観ているような、映像的で、かつ洗練された描写は、さすがという他ない。



切れ味: 良





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