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何食わぬ顔で待ち合わせ場所に向かい、乾杯してすぐ、私はぶっ込んだ。
「あのさ、マッチングアプリとかやってる?」
「え?笑 なに急に。やってないよ」
「じゃあ何でLINEの名前変えたの?」
「あー…別に理由はないよ。なんとなく」
「怪しすぎる」
「いや本当だって。訓練中、海外で同期がやってるの見て面白そうだなーとは思ってたけど」
「あ、分かった。パイロットって地方に泊まること多いじゃん?現地で引っかけた女の子に本名知られて、会社名バレると都合が悪いからだ?」
「探偵かよ笑 そんなに遊んでないし」
「いや絶対そうじゃん!」
こんなやりとりをしばらく続けたが、結局タクヤは理由を教えてくれなかった。
しかしこの日。
恋愛の話を不自然に避けてきた私たちが、初めて片足だけ突っ込めたような、そんな感覚があった。
12月の寒い夜だった。
飛行機は季節風の影響を受けるため、同じ区間でも夏と冬では飛行時間が変わる。
パイロットはそれで季節の変化を感じるのだと、私はこの日、タクヤに教わった。
年末に差し掛かった頃。
仕事を納めて年末年始休暇に入った私は、翌日からの帰省の荷造りを終えて、暇を持て余していた。
空白の時間にふと、タクヤのことを思い出した。
アプリはやってない。
でも、本名を知られると都合が悪い。
つまり、検索されると困るものが、ネットに出ている…?
なんとなくスマホでFacebookを開き、タクヤの名前を打ち込んだ。
私たちはFacebook上の友達ではなかったが、お互いFacebookをやっているということは知っていて、私はその昔、彼のプロフィールをこっそり見たことがあった。
投稿しない主義なのか、友達だけ公開の設定にしているのかわからないが、その時のタイムラインがほとんど空っぽだったことを覚えていた。
見覚えのあるプロフィール写真を、タップする。
タクヤのプロフィールに飛ぶと、タイムラインの一番上に、新しい投稿が見えた。
<11月◯日、XXXXさんと入籍しました。>
絶句した。
添付された写真の、タクヤの隣には私の知らない女性がいて、二人揃って薬指に指輪を嵌めた左手の甲をカメラに向けていた。
え…?先月…?
何で?
10月も12月も会ったよね?
その間に結婚してたの?
何で?
何で何も言わなかったの?
私を友達と思っていたなら、何で教えてくれなかったの?
あなたにとって私は、何だったの…?
殴られたような衝撃が走り、頭が熱かった。
夢であってくれ。
いま目に映るこの景色が、どうか全部夢であってくれ。
そう祈りながら、ご丁寧にタグ付けされたタクヤの妻のプロフィールに飛んだ。
プロフィールを見る限りはあまり特徴のない女性で、私はますます分からなくなった。
何で?
え、何でよ。
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