今朝、久しぶりにコンサータを飲んだ。


 いつ以来か思い出せないほど久しぶりの服用である。


 何故飲んだかというと、コンサータには意識を覚醒させる作用があることを思い出したからだ。

 前の主治医はコンサータを飲むと目がシャキっとする、という表現を使っていた。

 目がシャキ、にはなっていないが効いているな、と思う。


 ここ一月ほど過眠症のようなものが酷く、会社で朝の8時40分になると抗えない眠気に襲われて居眠りしてしまうのだ。


 私は出先では全く眠れないタイプで会社で居眠りするなど考えられないことである。


 居眠りについて思い返すと、高校生の時はつまらない授業の際によく居眠りをしていたことが思い返される。

 今考えると幼少期から不眠傾向があった私が授業中に居眠りしていたなんて信じられないことに思えるが、高校という場所がそれだけリラックス出来る空間だったとも考えられる。 


 だから会社で居眠りが始まった当初は、自分はこれだけ会社でリラックス出来るようになったのだな、と感慨深くもあったのだが、昨日上司からチャットが来てそんな気持ちは吹き飛んだ。


 「最近よく居眠りしてるよね?寝不足ですか?
他の部署から少し指摘が入ったので居眠りしないで下さい」


 多分上司は他部署のタレコミで初めて私の居眠りを知ったと思われる。

 上司は忙し過ぎて私を見てる暇なんてないし、仮にもっと前に気づいていたならその時注意してくるはずだ。 


 私の席は通路に面しているのでたくさんの人に見られてしまう。

 誰かが上司に進言するのも時間の問題だとは思っていた。

 早く治さないと、とは思っていたがこうやって上司から注意を受けて本腰で過眠症と向き合うことになったのである。


 居眠りごときで会社を辞めるわけにはいかないのだ。

 何が何でも今の会社にしがみつかないと。

 他に私の居場所なんてないんだから。 


 カフェインは効かない。 

居眠りが始まってからというもの、毎朝会社に行く前と着いた後でブラックコーヒーを飲むのだが、一向に眠気は消えない。

 また不眠の寝不足がたたって日中眠くなっていた時に、エスタロンモカ、眠眠打破、目がシャキ、このあたりも試したが無駄だった。


 とりあえず明日はミンティアの辛いやつを食べて眠くなったら運動するしかないな、と思いながら8時に寝床に就いたのだが、その時コンサータを思い出したのだ。


 またストレスが強くなって脳内の多動が起きた時の為に幾つか残してある。

 あれを明朝試そう。

 あれに全てを賭けるんだ。 

そう思って眠りに就いた。


 朝。

 眠い。

 最近は毎朝こう。

 長時間寝ても朝眠気が取れず、ベッドからなかなか出れない日がほとんどだ。

 そしてこんな日は必ずデスクで寝てしまう。 


 今朝は根気で起き上がるとコーヒーを飲むためにお湯を沸かした。 

その間に顔を洗い(普段は眠すぎて拭き取り化粧水で済ませるが今日は気合を入れるためにどうにか洗顔した)それからコンサータを飲んだ。

 眠いな、と思いながら支度を済ませて会社へ向かった。 


 いよいよ、だな。


 メールチェック等、朝の作業を諸々終えた頃に壁にかかった時計を見た。


 8時30分。 

あと10分。 

 どうだ?
来るか? 


 やりたい作業があったのでそれを片付けているうちに時計は9時を指していた。


 勝った。 


 私は睡魔に勝ったのだ。


 その後も眠気は訪れることなく、無事に現在18:10を迎えている。 


 注意を受けた翌日くらいは上司への通報者にきちんと起きていることを示して失った信頼を少しでも取り戻したいところだったので今日の結果には安心している。


 だが、コンサータが効いたのだとしたら、やはりこれはあまりに強力な薬なんだろう。


 あんなに頑固な眠気を寄せ付けないなんて。

 それもそうか。
あれだけうるさかった頭の中を一瞬でクリアにしてしまった薬だもの。


 コンサータは処方する側もされる側も登録が必要になる。

 前の主治医は私がコンサータを欲しがった時、ひどく処方を渋った。

 当時はとにかく頭の中がうるさいし、家事は出来ず家の中はぐちゃぐちゃ。

 どんな手段を使ってもそんな状況を打破したかった。


 だから主治医のコンサータの出し渋りには苛立ちもしたのだが、今思うと無理からぬことだな、と分かる。


 こんな強力な薬、安易に処方出来るはずがない。 


 つい先日、村上龍の「五分後の世界」を読んだのだが、作中に架空の向精神薬「向現」が出てくる。

 精神薬ではなく覚醒剤や麻薬かもしれないが、そんなことはどうでもいい。

 話を戻そう。 


 私にはコンサータが向現に重なって見えた。


 瀕死になったゲリラ兵士が向現をやって意識を取り戻し、敵にライフルを打ちまくる。


 そのシーンの向現をコンサータに代えても、瀕死のゲリラ兵士はライフルをぶっ放せるんじゃないか。


 それくらいに私にはコンサータが強力な薬だと思えてならなかった。


 あれだけ強い眠気を消し去るなんて生半可な効果ではない。


 前の主治医がコンサータを出し渋った理由も今ならよく分かる。 


 しかし先にも書い通り、私は絶対に今の会社を辞める訳にはいかないのだ。 


 コンサータを飲むことにはかなりの抵抗があるが、しばらくはコンサータを飲んで眠気を誤魔化すしかないだろう。 


 と、今日居眠りしなかったのはコンサータのお陰、という前提でここまで書いてきたが、本当にそうなのだろうか。


 今日は最初から眠気は出ない、と決まっていた可能性はないだろうか。 


 もしかするとコンサータは何の作用も起こさなかったのではないだろうか。


 だとしたら私はどうすればいい?

 もしコンサータで眠気が消せなかったら私はどうすればいい? 


 ダメだ、弱気になってはいけない。


 私はゲリラ兵士だ。

 健常者の社会で戦う境界知能のゲリラ兵士だ。

 ゲリラ兵士は負けを想像してはならないのだ。 


 火曜日の朝、またコンサータを飲もう。


 そして時計の針が8時40分を指すのを待つのだ。 

きっと私は時計の針が8時40分を回るのを見届けることが出来るだろう。 

意識の消失を免れるだろう。


 そうであってくれ。




 

 間違って重複買いしたピアス。

めっちゃ可愛い。そして金属アレルギー出ない!