道が開けた気がする。アジア横断の道がようやく開けた。それはビザだ。 難関と呼ばれていた中央アジアのビザを、戦争状態のタジキスタンは置いておいて、 すべてクリアした。ようやくトルコが見えてきた。ついにトルクメニスタンビザ を取得したのだ。まだ陸路国境の問題が残っているが(特にトルクメニスタン~ イラン)、かなり見通しはたったと言ってよいだろう。

 朝から忙しく行動した。今日はトルクメニスタン大使館に行くつもりだったので、 最初に今日から移ろうと思っているタシケントホテルに行く。昨日の親切なおばさんは チェックインは昼過ぎからだと言っていたが、パスポートを大使館に預けなくては ならない可能性が高く、だから先にパスポートだけでも見せておこうと思ったのだ。 昨日訪れた「サービスビューロー」というところに行ってその旨を話すと、何故か ビジネスセンターに通された。

 彼らによると、本来このホテルは地元の旅行会社を通じて予約を入れていないと現金では 支払えないのだそうだ。特に外国人はかならずVISAカードでの支払いとなる という。VISAカードは持っているかと聞かれたので、正直に持っていますと 答えてしまった。けれども僕は出来れば現金で払いたい事、そのための両替 証明書も持っている事を説明すると、最初のうちはその両替証明書の日付が 古いだのなんだの渋っていたが、結局ソムで支払える事になった。しかも その両替証明書は特に取り上げられなかった。(彼らは国境で必要だと言っていたが 本当だろうか?)

 手続きを終えて、まだ12時前にもかかわらず部屋を用意してくれる。さらに その場でトルクメニスタン大使館の場所も聞いて、一路タクシーでトルクメニスタン 大使館に向った。ホテルから200ソムだった。大使館のビザセクションはガラガラ で、ノックするとようやく人が出てきてくれる。僕がビザを取りたい旨を申し出ると、 すぐにインビテーションの有無を聞かれる。インビテーションを持っていないと わかるとビザは出せないなあと言われてしまった。けれども僕が既にイランビザを 持っている事を告げると、トランジットビザを出してもらえる事になった。

 いつ入りたいのかを聞かれたので、7月3日と答えておいた。これから 周りたいと思っているウズベキスタンの街を考えると、あと半月もあれば十分だろう。 それに、多少の融通は利くはずだから、たとえ7月3日と言っても有効期限は もっと長いに違いないと勝手に解釈した。たとえばイランビザの場合は 8月の末までに入国すればよくて、入国後2週間滞在できる ことになっている。このビザセクションの男は 忙しいからなのか、やけに素っ気無く、ぶっきらぼうだ。詳しい説明もなにも 無く、「じゃあ今日の6時にもう一度来てください。31ドルです」といって ぴしゃりとドアを閉めてしまった。申請用紙に何か記入する必要も、写真を 渡す必要もなかった。

 大使館とはその国の顔である。彼らの対応から、トルクメニスタンという国は 外国人を、そして旅行者をあまり大切に扱っていない国だなという感想を持った。

 一度トゥランホテルに戻り、荷造りを済ませて本格的にタシケントホテルに戻ってきた。 ここは街の中心(といっても結構閑散としている)に位置するので、観光にも とても便利だろう。早速、ビョンジュに教えてもらった闇両替をしてくれる レストランに行って200ドルほど取り替えてきた。レートは160ソムだった。 これで銀行で換えた分も含めて加重平均すると 僕の交換レートは1ドル150ということになった。

 その後一度ホテルに戻り、ビジネスセンターの職員にこの街にインターネット カフェはないかと訊ねてみたが、「インターナショナル・カフェ」ってなに ととんちんかんなことを返されるレベルで、Eメールすら知らなかった。 カザフやキルギスでは割と簡単にインターネットカフェを見つける事ができて いたので、中央アジア一の都会では当然のように簡単に見つかるだろうと 思っていたので意外だった。

 インターネットはあきらめて、近くのおしゃれなカフェテリアでピザを昼食にし、それから歴史博物館へと 出かけていった。カザフ、キルギスと歴史博物館に訪れているので、是非とも ウズベクでも押えておきたい。特に僕は独立後の歴史のコーナーが好きで、 それを楽しみにホテルの隣にある歴史博物館へと足を運ぶ。ところが、ちょうど その時は食事休憩中とのこと。しょうがないので、その間旧市街をめぐる事にする。 最近だいぶ路線を把握してきた(といっても二本しか無い)地下鉄を駆使して、 旧市街の真ん中にあるバザールに行ってみる。ちょっと過信しすぎて乗り換えを 失敗してしまったが、料金は一回10ソムなのでそれほど痛くない。

 ところで、この国の地下鉄も含めて旧ソ連の地下鉄駅というのはどれも とてもすばらしい。まるで宮殿のような造りの駅があったと思えば、かなり モダンな造りの地下鉄駅もある。どれもかなり特徴を持った駅なのだ。細部の 細工がとてもすばらしい。僕のホテルの近くの地下鉄駅は、ホームにシャンデリアが ぶら下がっていた。この辺はどの駅も同じで特徴の無い日本の地下鉄と とても大きな差がある。

 それから前にロシアを旅した時にモスクワとペテルブルグの地下鉄駅が あまりにも深いところにあるのに感心していたが、(核シェルターを兼ねている という噂)ここの地下鉄は拍子抜けするほど浅いところにあった。きっと 地震多発地帯であるという地盤が影響しているのだろう。 

 バザールはいままで見た中央アジアのどのバザールよりも巨大だった。 地下鉄の駅を出るとそこはもうバザールの真っ只中で、すぐに迷子になりそうだ。 カメラを取り出すと、すぐに声をかけられる。そして自分も撮ってくれとせがまれる。 写真好きはこの地域に共通した特徴のようだ。一個所が終わるとまた別のところで 声がかかり、それが終わるとまた別のところで声がかかる。

 


マーケットはやっぱりアジアだった

みんな愛想が良い

それに活気にあふれている

売り物がこれだけの人もいる


 遠くに巨大なドーム状の建物が見えた。何だろうと思い近づいてみると、そこも まだ市場だった。中では香辛料や惣菜などが売られている。一回りするだけでも 相当疲れてしまった。しかもこの街はとても暑いのだ。帽子がなかったらあっと いう間に日射病にかかってしまいそうなほどに日差しが強い。だから1時間ほど 市場をうろついた後、僕は逃げるように地下鉄に乗り、歴史博物館へと 戻ってきた。
 


建物の中のジャガイモ市場

夕食の買い物?


 料金は280ソムだった。意外に高い。きっと外国人料金だろう。入り口では 切符売りのおばちゃんに闇両替を持ち掛けられる。博物館の係員まで 闇両替を持ち掛けてくるとは、この国も相当だ。僕は先ほど大量に 両替したばかりなのでやんわりと断った。レートは1ドル150ソムだった。

 博物館はあまりたいしたことはなかった。というよりも、どこも同じようなもの ばかりを展示しているので、いいかげん飽きてきた。独立後のコーナーは ほんのわずかで、カザフやキルギスのように「各国からの贈り物コーナー」が ある訳でもなかった。終わりの方に、たぶん国交を結んでいる国の国旗が陳列してある コーナーがあった。一段高くなったところに5つの国の国旗があり、それを取り巻くように 他の国の国旗がある。5つの国のうち、3つについてはなんとなく理解できる 国だった。ロシア、アメリカ、イギリスである。けれども他の2国については なんでこの国が1段高いところにあるのだろうと首をひねってしまう国だった。 一つはイラン、そしてもう一つは我がニッポンだったのだ。パネル展示には この国の首相とクリントン大統領が並んで映っている写真の他に、日本の天皇と の写真も飾って在った。ウズベクと日本というのは意外に緊密な関係なのかも しれない。

 あまりの暑さにホテルで少し休んだ後、トルクメニスタン大使館に向かう。 6時に来いと言われたので、きちんと6時に行った。何人かビザを取りに来ている 人がいる。警官が中に入って確認したところによると、6時20分まで待って ほしいとのことである。まあ20分くらいなら仕方が無いだろうと思い、おとなしく 列に並んでいた。けれども結局20分では済まなかった。なんとその後1時間半 も待たされたのである。なんの理由の説明も無しに。建物の二階に行くと、パスポートを すぐに渡されたのだが、僕がビザの確認をしようとすると「すぐに下に降りてください 」と言われる。やはりこの国は外国人を、旅行者を大事にしていない。 しかも下に行って、ビザの確認をすると、日付の欄が明らかにおかしかった。 有効期限が6月3日からとなっていたのだ。訂正しに戻ったら、さすがに 「すいませんでした」と言ったが、その態度もあまり気持ちの良いものではなかった。

 もらえたビザは思っていたよりも厳しいものだった。7月3日きっかりに入国 しなくては行けない上、有効期限はたったの4日だ。帰りのバスの中で一緒になった アフガニスタン人によると、みなトランジットの場合は4日しかもらえないのだ そうである。中に入ってから延長できるようだが、たぶん50ドルくらいは かかるだろうということだった。大使館の印象から、トルクメニスタンは4日で いいやという気分になっていたので、この国は「通過」することにした。

 実は僕は今日オペラを見に行くはずだった。タシケントホテルの目の前には ナボイ劇場という有名な劇場があり、そこで今日のオペラのチケットを仕入れて おいたのだ。といっても料金は300ソム。今の僕のレートで言えば たったの2ドルである。ただ、そのオペラは6時開演で、だからもう今日オペラを 見るのは半分あきらめていた。念の為行ってみると、最後の10分程のクライマックス だけ見る事ができた。実は明日のバレエのチケットも持っているので、 そちらに賭けることにしよう。