ジャズ喫茶を求めて | ごんきつね残日録

ごんきつね残日録

日残リテ昏ルルニ未ダ遠シ
-愉しむことの中に、ゆっくりと生きる-

ひとりでゆっくり過ごせる場所、そしてあちきにとっては

心の平衡を取り戻す場所でもあるジャズ喫茶。

 

 

渋谷で映画を観るときはいつも立ち寄っていた『音楽館』

なくなってから20年近く経ってしまった。

 

すべての席がスピーカーに向かっていて、それぞれが

個としての時間を静かに過ごしている空間。

リクエストカードをお願いしたときのマスターの笑顔を今でも思い出す。

 

 

休日の終わりのしめくくりとしての時間を過ごした吉祥寺『メグ』

いつだったか久しぶりに訪れると、レコード係の人もいなくなり、

ただのジャズを流すカフェになってしまっていた。

それ以来、行っていない。

 

職を失くし、浪々の身だった時期には、他に客のいない

開店間もない時間帯によく行っていた。

開店から客が来るまでのほんのひととき、店の前でノラ猫(?)に

ギターを弾いて聞かせるレコード係のにいさんの姿があった。

‘にいさん’といっても、当時の自分より少し上くらいの

年代だったのだろうか。

 

あちきの様子を見て、かけるアルバムを選んでくれていたのだろうか。

収入のないときだったから、電車賃とコーヒー代も貴重だったけれど、

そこへ足を向かわせるのは、特別言葉を交わしたこともないけれど、

レコード係のにいさんの人柄や選ぶアルバムにすくわれていたからだと思う。

 

とても好きな店だったけれど、今のご時世、昔ながらのジャズ喫茶では経営が難しいのだろう。

 

 

そんなとき、ふとネットで見つけた渋谷『スウィング』

渋谷の繁華街を抜けたUPLINKの近くだ。

クリスマスでにぎわう渋谷の人ごみを抜けて雑居ビルの4階へ

一見、入りづらそうな雰囲気のドアを開けて中に入る

さらにドアを開けて店内へ

オーディオからはやや大きめの音量で聴かせる音楽

スピーカーに相対する席に男性客がひとり…

 

いい感じだ。

 

ホットコーヒーとキャロットケーキを注文して、

スピーカーからの音楽にしばらく身を任せる

渋谷の街は、あちきの苦手な若い人たちや群れる人たちで

ごった返していた

店にたどりつくまでにすり減った気持ちが

少しずつ穏やかさを取り戻す。

落ち着いて1時間ほど本を読む。

 

『ちいさないきものと日々のこと』(もりのこと+渡辺尚子/編)

イラストレーターや編集者、造形作家など様々な人たちが

いろんな生きものたちとの暮らしから感じることや思いを

つづっている。

いろんな生きものたちとの、それぞれの人のかかわり方を通して、

大切なことをあらためて感じる

 

いい時間を過ごせる、いい店を見つけた…と感じていた

そのとき、ドアが開き、大声でひとりの男性客が入ってきた。

常連と思しきその男性は怒鳴るような大声でマスターに

話してかけている。

その男性は酔っぱらっているのか、

オーディオの音量に負けじと声が大きくなるのか

声が小さくなる気配もなく、周りへの配慮など全くない

マスターも声は控えめながら、男性と会話を続ける

音楽は全くといっていいくらい聞こえない状態が続く…

気づくと目の前がかすむほどの煙が立ち込めている

火災!?

よく見ると例の男性客の葉巻の煙だ

別の女性客は煙のためか、注文した食事が届いても

手を付けずにいる

 

鎮まっていた心が、だんだん毛羽立ってくるのを感じる

たったひとりのためにですべてが台無しだ

でも、マスターは普段通りといった様子で応じている

ここはきっとこういう店なのだろう

 

ここはジャズ喫茶ではない

とても残念だけれど…

 

あわてずに、じっくりと探そう…