「キョーコちゃん、手伝いはいいから
楽しんで。板長(尚の父)も腕を振るうといっ
てるし。」
女将に手伝いの申し出をやんわり断られ
た。
「それからキョーコちゃんのお部屋その
ままにしてあるから今日は泊まっていっ
て。」
「ありがとうございます。」
女将はキョーコの耳元で囁いた。
「敦賀さん、竹の間にしておいたから。
いい男よね。久しぶりにドキドキしちゃった
わ。」
「女将さん///」
キョーコの部屋と竹の間は廊下を渡って
すぐのところにある。
この部屋が使われたことはキョーコの記憶
の中で1度もない。
女将は瞬時にキョーコの気持ちを汲み取っ
たのか?
(…そんなに顔にでてるのぉぉ。恥ずかしい
///)
実際はしきりにキョーコのことを聞く蓮と
それをにやにやしながら、見ている社長を観
察していたからだ。
「キョーコ待ってたわよ。どこいってた
の?」
奏江は腕組みして出迎えた。
「モー子さん、ごめんなさい。女将さんと
お話してましたぁぁ。」
「まあ、いいわ。ここ、あんたの実家み
たいなもんでしょ。泊まっていくの?」
「う…うん。」
奏江には家族のことを話していたので
先に話を切り出してくれたが、少し後ろめた
い。
「おいしい!さすがは、京都一の旅館。
味付けがキョーコの料理と似てるね。」
「とんでもない!板長は日本一の腕前で
私など比べ物にならないですぅ。」
奏江の言葉をキョーコは全面否定。
(…敦賀さんはお食事してるかしら。)
蓮の姿を探すと、彼は女優達に囲まれて
談笑していた。いつもの光景だ。
そこににやにやしながら社長がやってき
た。
「気にすることはないぞ、最上くん。
君は恋愛劇のヒロインだ。自分の気持ちに
正直に行動したまえ。」
「社長…///」
「なぜか、蓮と俺の部屋はすご~く遠いし
なあ?」
社長の目はまるでチェシャ猫のようだ。
「///」
キョーコは恥ずかしくて俯いていた。
「最上さん、どうしたの?社長に何か言わ
れた?」
遠くから様子をみていた蓮が駆け寄ってき
た。
「敦賀さん…///」
キョーコが顔をあげると心配そうな蓮の
顔があった。
(…きゃ~あ。血圧上がる~。)
「なに、最上くんの『紅葉』の感想を
言ってただけだよ・な?(見ていない。)呉前
くんを感嘆させたそうだからな。」
社長はキョーコにウインクしてみせた。
「は…はい。」
「そうか。よかった。こちらの料理は
本当においしいね。」
「あ、ありがとうございます!」
「でも、一番は最上さん(の作る料理)か
な。」
「////」
(…そこ、省略しないでくださいっ!!)
にやにや度が増す社長に居たたまれない
キョーコだった。
2017.5.20加筆修正