‐‐‐‐‐‐‐関内へ‐‐‐‐‐‐‐

「さっきの、すごく効いた。護身術、習ってた?」

「この間、保健の授業の講習会で、CAP(キャップ)の指導の先生が来たの」

「キャップ?」

「Child Assault Prevention。主に子どもや女子を犯罪から守るための訓練。まさかショーに使うと思わなかった(笑)」

「スマン」

「ドキドキした。心臓にわるいよ」

俺も。という言葉を、呑み込んだ。

「マリナード広場、関内の地下鉄から行くのが一番近い。電車で行こう」

「うん」

みなとみらい線で横浜まで戻って、市営地下鉄に乗り換えた。

「マリナード広場で、何買いたいの?」

「フフ、ナイショ」

何でもいいや。とにかく機嫌が直ってよかった。

地下鉄からは広場のあるマリナード地下街まで直結で行けた。

歩いていくと、どこからかピアノの音が聞こえてきた。スピーカーから流れる音じゃない。地下街でピアノ?

「何かイベントやってんのかな」

「うん、広場に、ストリート・ピアノが置いてあるの」

「へぇ」

やっぱ、生音って、いいな。聴いてると、フッと日常から抜け出せる。その場所が、特別な空間になる。

広場に着くと、片隅に置かれたピアノで、小さな女の子が「小犬のワルツ」を弾いていて、その周りで道行く人々が足をとめて見守っていた。

「街角ピアノってやつか。NHKのBSで観たかも」

「うん」

「さっ、行くぞ」

「待って!」
ニコニコして、俺の腕を掴む。

「お店、閉まっちゃうぞ」

「ショーの、ピアノがまた聴きたくて来たの」

「マジで?もしかして」

「そう。それ目的」

あちゃー、こんな人前で、しかもTVで観た感じでは、みんなそこそこ上手い人が弾いてる。俺なんか場違い。

「冗談はそれぐらいにして、どっか店入ろうぜ」

「お願い!1曲でもいいから。ホラ、ちょうど終わったし」