‐‐‐‐‐‐‐青木ママ‐‐‐‐‐‐‐

南武線を降りて、西口に向かう。

「こっちこっち!」
来たことがあるのか、得意気に手をぐいぐい引っ張るしゅうくん。

「徒歩1分だっけ」

「すぐすぐ、わかるよ。お母さん駅前まで出てきてくれるって」

と、言い終わらないうちに、ショートカットのにこやかな女性が、紺の看護服に薄手の白いカーディガンを羽織り、大きく手を振って走って来るのが見えた。青木にどことなく通じる明るい雰囲気。

「ままー!」

しゅうくんがその人を目掛けて飛び込んでいく。勢い余ってくるくる回る二人。子育て、体力勝負だな。

「ごめんなさいねー、せっかくの約束、ジャマが入っちゃってー!もー今朝、仕事になったって言ったときのこの子の顔見せたかったわー(笑)」

「ちょっと、おかーさん」

「でもねー、うちもチビの熱発のときいっつもみんなに助けてもらってるからー、あんまり急でもなっかなか無理とは言えなくてー」

「わかります。俺、美和さんと同じクラスの槙田翔です。初めまして、よろしくお願いします」

止めどない言葉の奔流のなかに分け入って、どーにか自己紹介できた。

「こちらこそ、翔くん。はじめまして!うちのムスメをよろしくねー。アラ、かわいい八重歯ね、矯正歯科だけど、治してく?」

「おかーさんてば!」

「冗談冗談!一回じゃ無理だからっ(笑)アハーハーハーハーハー!」

青木が俺の顔を見て目配せした。

(ごめん、いつもこんな感じのノリ)

(みたいだなw)

「お母さん、マメも一緒だけど、大丈夫?」

「大丈夫大丈夫!任せて。もう帰れるから」

「ショー兄ちゃん、また遊ぼ!」

「うん、またな」

しゅうくんと、グータッチした。

「じゃあ、いってらっしゃい。出だし、スベったからね、少しなら遅くなってもイイよ」

ウィンクして親指を立てる青木ママ。ファンキーで話好き、うちのハハが一番苦手とするタイプか。いや、案外正反対で、合うかもな。

「じゃあ、いってきます。マメも、元気でな」

半透明のドアの一部に鼻をくっつけたマメに、ドア越しにそっと触れた。