手荷物をまとめて、顔を見ずに階段に向かった。

早く離れたくて、駆け降りる。信じられない、追ってくる!

「真侑、冗談だって!本気にすんなよ」

「来ないで」
顔、みたくない。キモい。

駅の雑踏に逃げ込む前に追いつかれ、左手に下げていたサブバッグを奪い取られた。

「返して」
手作りの、大事なバッグ。

「取りに来いよ」

「近づきたくない。下に置いて」

「置いていいの?じゃ、置く」
と言って、実際には胸ぐらいの高さから、足元の水溜まりに、落とした。

カシャ、と儚い音がして、中の何かが壊れたのがわかった。ビショビショ、泥々。
カバンからコンビニの袋を出して、無惨に散らばった宝物を拾い集め、奪い返した。
これは、ウチを傷つけようとしてやってんだ。絶対に泣くもんか。

「気がすんだ?」

多少は気がとがめたのか、黙りこんだ拓斗の横を通って、駅に向かった。

背後から、声。

「真侑、ゴメン!あとで連絡する」

まだそんなこと言ってる!怒りと呆れでズッコケそうになった。

いらない!
もうほっといて!

改札を通り抜け、全力で走った。