白い巨塔(五) | 野村孝博のブログ

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 山崎豊子著「白い巨塔(五)」を読みました。

 

 財前が被告となる控訴審が始まり、元婦長が証人として証言台に立ちます。ここで財前の今までの証言について否定し、更に財前側の弁護士がお金を持って工作に動いたことまで証言します。しかしながら、これについては確たる証拠がないため、「弁護士を侮辱する発言だ」と反論されてしまいました。もちろん、そうした反論ができるからこそ、そうした工作を実施したのでしょう。全く持って酷い話ですが、財前自身に与えたダメージは大きいようでした。

 

 合間に、里見が以前診た奈良の山村に老婆を訪問したり、財前が休暇をとって黒部ダムに行ったりしているところが書かれているのですが、里見の医者としての立派な姿勢に感心させられ、また以前読んだ「黒部の太陽」を思い出して、また黒部ダムに行きたくなりました。本筋に裁判についての描写が多くなるので、ちょっと離れる話を、箸休めのような形でちりばめるのが、良いのでしょうね。

 

 財前が出馬する、学術会議選挙については、医師会から圧力をかけて、相手候補を降ろさせて、その票を頂くことで当選します。こちらも権謀術数がすさまじく、気持ち悪くなってきます。里見からは、「選挙から降りて、裁判についても反省すべき点は認めて反省するように」と言われるのですが、それに反発するように財前は激務に耐えて当選を果たします。

 

 控訴審も大詰めとなってきたところで、傍聴席にいた、患者の担当医だった柳原が両親の呵責に耐え切れず、また、財前の不遜な態度にも我慢が出来ず、今までの証言を偽証と認めた上で、急遽証言台に立ちます。柳原にもかなりの圧力がかかっていましたが、それを振り払い、なりふり構わず証言しました。その柳原に乗っかって、財前によって地方の病院に飛ばされた江川も証言台に立ちます。江川は証言台で激高し、退廷を命じられてしまいますが、この辺りの描写はかなり痛快でした。

 

 結局、財前の敗訴となるのですが、財前は怒り狂って「最高裁へ上告だ!」と言いますが、そのまま貧血で倒れてしまいました。激務がたたって、末期がんに侵されており、かつての上司だった東元教授が執刀しますが、転移がひどく手が付けられない状況で、そのまま縫合するような有様です。裁判では対立していた財前と里見ですが、最終的に財前は里見に検査を頼みます。主義主張は違い、外科と内科の違いはあるものの、お互いに医者の仕手の技量は認めあっているのですね。奇しくも、財前は自らのこの状況によって、医者の診察によって、患者がどれほど心安らかでいられるかを知り、執刀後、担当医任せにした患者についての後悔の念に駆られるようになります。

 

 財前は亡くなりますが、その前に「私屍病理解剖についての愚見」と題し、大河内教授宛に文書を書いていました。大河内教授がこの文書を読み、病理解剖が終わったところで物語は終了します。

 

 面白くて、夢中になって読みましたが、どうしてこうも主人公が報われないのかと思います。しかしながら、あとがきや解説によれば、本書は一度(三)で完結しており、(四)、(五)は続編なのだということでした。(三)で完結となれば、財前は無事勝訴、里見が退職と言うところですから、後味は悪いものの、主人公が悲惨な結末を迎えることはありません。しかしながら、社会的影響が大きく、多方面から続編を求められたということでした。里見のような高潔な人格者が必ずしも報われない、権謀術数の限りを尽くしてのし上がっていく方が上手くいくような書き方がらしいと言えばらしいですが、(三)で終わっていたら、私も後味の悪い思いをしていたことでしょう。

 

 昭和30年代が舞台ですから、癌については告知をしないという時代だったのでしょうね。そして、癌について、医療について、裁判についての取材を相当に重ねられたのだということがよく分かります。存じ上げていなかったのですが、著者は毎日新聞の記者で、井上靖氏に文章についての指導を受けていたということでした。そう聞いてしまうと、井上靖も読んでみたくなります。

 

 面白かったのですが、やっぱり長いので、ちょっとインターバルを置いたら、今度は「不毛地帯」を読もうかと思います。