コマツ
以前ピアッツァで一緒に働いていたコマツである。
彼は3年前に東京に行き、有名店にて腕を磨き、この春から札幌に戻り、「マガーリ」で働く事が決まっている。
美味しい店に就職が決まって何よりである。
東京ではコマツの下に何人か居たらしく、「返事もしないヤツが居るんですよ」と、苦労を洩らしていたが、私と一緒に働いていた当時のコマツの反抗期も十分それに値していたではないか。
「あたしの気持ちが分かったかコノやろー」と言ってやると、笑っていた。あまり分かっていない様である。
コマツはこんな顔であるのに可愛い妻がおり、先日札幌にて結婚式をした。
その際にスピーチを頼まれたので、あまり得意ではないがコマツの頼みであるし仕方あるまいと引き受けた。
私は日々でかい事は言っているが、かしこまった人達の前では言えないという、最悪のパターンなのだ。
すると後日、「乾杯の音頭もお願いできますか・・」と電話が来た。
「乾杯?!」と焦ったが、今更スピーチも乾杯も一緒だと思い、「わかった、やるよ・・」と引き受けた。
文章を覚えるのは間違いなく無理なので、パソコンでプリントアウトしたものを持って行き読む事にした。
当日、不安だったので友人を練習台に読んで聞かせた所、「・・文とかいう問題じゃなく、女だったらもうちょっと可愛い紙とかに書いたりするんじゃない・・」と、しわしわのA4のコピー用紙を指摘された。
「なるほど!そうだ!」と思ったがもう遅い。仕方ないのでせめてもと、しわしわのコピー用紙を綺麗にたたんだ。
そして、高砂ど真ん前の主賓席に座り、スピーチに乾杯の音頭と、コマツのおかげでうちの父親でさえやった事のない大役を果たしてしまった。
店に遊びに来たので、有無を言わさずエプロンを渡し強制労働である。
今度来た時は、私の賄いとしてカノビアーノ仕込みのスパゲッティを作って貰おうと考えている。
