ピアッツァ
私は以前、「タベルナ・ラ・ピアッツァ」というイタリア料理店に9年間働いていた。
9年居ると自ずと年長になるもので、気付けば社長以外は全員私より年下であり、それをいい事に私はスタッフにはかなり傍若無人に振舞っていた。
どの程度の傍若無人かと言えば、スタッフが取っている朝刊を毎日欠かさず持ってこさせたり、手が痛いと言うまで肩を揉ませたり、飲みに行けば酔っ払って若いスタッフにチューをしたり、ついには休みの日にまで彼等がたいして出来ないテニスに付き合わせたりと、それは酷いものであった。
それに対して私は何一つ感謝をせず、当然だと言わんばかりの態度で、不備があったりすると凄い勢いで罵ったりしていた。極悪非道である。
しかしピアッツァを退職して1年半。色々な所で勉強がてら働かせて貰い、今更ながら人間的に少々成長した私はそれまでの自分を思いっきり悔いた。
今までの自分は酷すぎた。
感謝の言葉くらい言える様になろうと、彼等に「ありがとう」や「ゴメンね」等の言葉を掛けるようにした。おそらく本来であれば10代のうちに出来ていなければおかしい事であろうが。
するとタレコミが入った。「最近ノムラさんがありがとうとか、ゴメンとか言って気持ち悪い」と、彼等が言っているというのだ。やはりとは思ったが、「そんな事言ってるらしいじゃん」と、現料理長を務めるヤスに詰め寄ると、もごもご言っていたのでそうらしい。
「あたしだって少しは大人になったさ」と言ってやると、ヤスは遠い目をしながら苦笑いしていた。
我が故郷のピアッツァ。可愛い私の子供達は暇を見ては手伝いに来てくれる。
有難い限りである。
