一日能楽師入門体験
② 着付け 其の一
さて!どれも大切ですが…最大限に気を遣うところだと思います。
装束の着付けです。
能meetsでも取り上げていますが、能の装束は一人で着ることが出来ません。これはベテランであってもそうなのです。
基本は三人で(前一人、後ろ一人、補助一人)で着付けされます。
これはシテ方(主役を担う能楽師)の役目です。
今回は撮影場所でご協力いただいた杉江能楽堂事務局の伊地知さんにモデルとなっていただき、先生と南川さんのお二人で着付けされていきます。
伊地知さんも緊張されつつ、大変喜んでくださいました。
良かったです!こんな煌びやかな体験中々出来ません!
「(SNSの)アイコンにしたい~」と仰っていました。
いわゆるプロフィール写真ですね。
わかりますわかります!
あ、いや…待ってください。
…能面掛けると伊地知さんかどうかわからないと思うのですが、いいのでしょうか??
でも伊地知さんの嬉しさが伝わり、私もワクワクしてきました!
本当にお能が好きで、能楽堂を大切にされている方です。
南川さんはいよいよ!といった面持ちです。
まずは、装束の準備を。
ここでも準備が肝心なんですね。
装束をきちんと広げておきます。
使う道具(紐や糸、ハサミや帯など)も綺麗に並べておきます。
なぜきっちり準備をしておくか…もちろん、使いやすいようにというのもありますが、野外の楽屋等、狭い場所やいつもと違う環境でも
「アレ?ハサミは?」「櫛は?」
と慌ててしまう事がないように、だそうです。
そうですよね、いつも同じ場所で舞台があるわけではないですね。
私も薪能や特設会場などで拝見したこともあります。
さらに、先生曰く
「糸針や櫛、紐などをきちんと並べておくことで
『今日一日、ハサミは必ずここにあります』と表示していると同時に、『使い終わったらここに置いてください』という意思表示にもなる」
のだそうです。
なるほど…暗黙のルールが敷かれるわけですね。
道具を綺麗に並べられると、使った後も綺麗に戻そうと思いますね。
「いつも綺麗に使用いただきありがとうございます。」という貼り紙と同じ効果といったところでしょうか…??
キッチリされているなぁと、ちょっと自分の仕事机を思い出し恥ずかしくなりました…。
先生はこうも仰っていました。
「つまり、きちんと用意をしておく事で、出演者に 『その日の舞台を滞りなく勤めようという 【意気込み】 みたいなものを自然と伝えている』 ように思います。」と。
その心をしっかりと演者の方も受け取って舞台を勤められるわけですね。出演者だけではない、舞台創りが伺えます。
これほどの準備の元、いよいよ着付けが始まります!
お能ではかつらと言わずに、かずらといいますが、こちらのかずらも綺麗にといておきます。とく時は下からだそうです。
そして装束を着る方は、舞台にあがる白足袋の上に、汚れ防止用のくつ足袋(足袋カバー)というものを履きます。
これも、独立前は履くことを許されないので、足袋の上からもう一枚足袋を履くそうです。細かい決まりがあるんですね。
こういう決まりがあるからこそ、きっと自身がこのくつ足袋を履く時や、使える時の喜びだったり、大切にしようという気持ちも生まれるんだろうと感じました。
普段は、その舞台のシテを勤める方に気遣って、ほぼ喋らずに決まり事だけ声を掛け合って進めていく着付け。
ここにも相手を思いやる精神が溢れていますね。
集中を高めていけないといけないお舞台前に、必要ないお喋りで気を散らしてしまうわけにはいかないですもんね。
先ほどの道具の準備の話に戻りますが…
装束の着付けの時に何か道具が見当たらない!なんてトラブルがおこるのを防ぐことも、つまり
「舞台にこれから出て行く役者を不安にさせない」
そんな心配りです。
「舞台に出る役者を安心させる」=「いい舞台を演じることが出来る」
先生が仰っていた
「楽屋から舞台は始まっている」
この言葉につきますね。
ただ、もちろん今回は特別に南川さんに解説をしてくださいながら進めて行かれました。
襦袢の上から、今回はシテの着付けということで襟を2枚
「高貴な白を2枚でいきましょう」と仰っていました。
襟にもこんなに種類が。
色によって、年齢や身分を現す意味があるんです。
後ろから、襟や着物を上から肩にかけるように羽織らせます。
この時、着せられる役者は、手を後ろに回して袖を通しません。
全てあとからです。
これも着崩れないような工夫です。
そして「襟をつくる」作業です。
襟を折っていきます。
前と後ろの息の合った連係プレーが必要です。
終われば、後ろの南川さんは着物の中心がずれないように押さえて…前の処理です。
この時痩せている人にはコミと呼ばれる綿を仕込みます。
そして胴帯と呼ばれる紐を締めるのですが
この時に初めて声を出します。
後ろで胴帯を締める方が「おしまり」と声をかけて締めて行き…
着せられている人は「ここ!」という時に「はい」と言うそうです。
なるほど…帯の締め具合は本人でないとわかりませんもんね。
足元の着物をさばくと、いよいよ、かずらへ。
次回、其の二かずらから仕上がりです。