ホテルのフロントマンになりたい!
その瞬間から先の見えない不安が無くなった。
身内には教員が多い為、元々就職は全く頭に無かったのでまずは大学へ行ってからホテルに就職という路線が浮かんだ。
だが、当時は専門学校というものが増え始め、学校の図書室には分厚いいろいろな専門学校の案内書が置かれていたのを目にし、それにはホテルの専門学校もあることを知ると、すぐさま家族に自分の考えを訴えた。
ホテルマンになるって決まったのだから、もう大学の4年間は無駄になるから専門学校に進学したいと。
すると家族は一斉に反対した。
もしホテルを辞めることになったとしたら、それこそ専門学校が無駄になると。
最もな意見だったが、まだ就職もしていない段階で退職した後のことを考える頭は俺にはまだ無かった。
結局、自分の意見を押し通しホテルの専門学校へ進学することが決まったのだった。
3年生になっても考えは変わる事なく、ただジッと卒業の日を待つ日々が続いた。
そして無事に高校を卒業し専門学校に入学したのだが、驚くことに授業は5月からだった為、約1ヶ月バイトをしながら過ごしていた。
5月になり初めての登校。
階段を上がると、廊下には異常なほど沢山の生徒で溢れていた。
何なんだ?
後から分かったことだが、旅行学科が定員をオーバーして入学を受け入れていた為に、毎日教室に入れない生徒が溢れているという異常な事が起きていたのである。
しかし専門学校というのは半端だ。
何が半端かというと、大学を落ちても就職したくないから入学して来た者や、単にまだ就職しないで遊びたいからとりあえず専門学校にという者が多かったのだ。
俺のように純粋にホテルマンになりたいからという者はごく少数にしか思えなかった。
スチュワーデス学科、今ならCA学科というのだろうが、その女子達が休み時間になると廊下でタバコをスーハースーハー吹かしている光景に、こんな子達が本当にスチュワーデスになれるの?と、それまで持っていたスチュワーデスへの印象が変わってしまった。
夏休みは青森の祖父母の家で過ごし、9月になって後期の授業に行くと、前期で教室から溢れていた生徒達の姿は無く、校内全体が静かになっている。
夏休みを機に大量の生徒が辞めたらしく、ホテル学科も5クラスあったのが3クラスに減っていたのだった。
辞めた生徒の多くは地方から出て来て遊び呆けた挙げ句、学校にはほとんど来ていない事が田舎の親にバレて夏休み中に強制送還されたという者が多いらしい。
半端な理由で入学して来た者は、実生活も半端だったという事だ。
〜つづく〜