写真家の榎並悦子さんには、かつて「おはよう日本」の旅リポーターをしていただいたことがある。
互いに京都生まれ。さだまさしさんが共通の知り合い。
当時、よく語らったものだ。
榎並さんは、1996年以来、およそ30年にわたって、富山の八尾町に通い続け、「おわら風の盆」を撮影してきた。
「おわら風の盆」は、立春から数えて二百十日の9月1日から3日に、富山市八尾町で開催される祭だ。
農作物が風害に遭わないようにと、江戸時代から300年以上ものあいだ受け継がれてきた。三味線、胡弓、太鼓のお囃子で唄い上げられる民謡おわら節にあわせて、編み笠を目深に被った男女が踊り、数千のぼんぼりが灯る坂の町を練り歩く。
優美な踊りや哀調を帯びた楽器の音色、繊細な歌詞が訪れる人を魅了する。
ボクも富山局時代、毎年、おわらに足を運んだものだ。
いまでも、琴線を揺すぶられる時間がたまらなく愛おしい。
榎並さんが撮り続けた作品の集大成の展示会に行ってきた。
会場には、おわらの調べが流れているが、写真からも胡弓や歌声が聞こえてきそうだ。街のざわめきやときめきも感じられる。
女性のしなやかな指先、男性のたくましい足さばき、次代を担う子どもたちのあどけないしぐさ、観光客の溜息、それらすべてを
榎並さんが写し取っている。
さだまさしさんは、そんな榎並さんを「心の温度が写せる人」と評する。
「喜びの中に悲しみの種は播かれ、悲しみの底に喜びは芽吹く。
そんな心の痛みこそ、人の体温。榎並悦子の写真には、被写体の体温が写っている」と絶賛している。
八尾に暮らす人の喜怒哀楽、心の中から紡ぎ出される「風の盆」を見事に活写している。
榎並悦子写真展「越中八尾おわら風の盆」は、
六本木の東京ミッドタウンウエスト1階にある
FUJIFILM SQUARE(フジフイルム スクエア)で、
明日3日まで開かれている。
祭りの終わった9月4日早朝。