今朝の「あんぱん」は圧巻だった。
兄の嵩と弟の千尋の2人だけの会話。
海軍少尉となって、陸軍小倉連隊に所属する柳井嵩(北村匠海)の前に現れた弟・千尋(中沢元紀)。
3年ぶりとなる2人の再会は、駆逐艦に乗船して南方へと向かう千尋の、出撃を前にした面会だった……。
「この戦争がなかったら――」
「この戦争がなかったら――」
「この戦争がなかったら――」
「この戦争さえなかったら!」
千尋は「が」を3回繰り返し、最後は「さえ」を使う。
「この戦争がなかったら、法学の道を極め、腹を空かせた子どもや、虐げられた女性を救いたかった」
「この戦争がなかったら、いっぺんも優しい言葉をかけられなかった母さんに親孝行したかった」
「この戦争がなかったら、兄貴ともっと何遍も酒を飲んで語りたかった」
「この戦争さえなかったら、愛する国のために死ぬより、愛する人のために生きたい!」
国の為に死ぬというのは建て前で、本音は愛する人のために生きたいというのが、大方の兵士たちの気持ちだっただろう。
この台詞は、中園ミホさんの真骨頂だ。
連続テレビ小説「あんぱん」では、物語の中に“戦争”が影を落としている。これまでも、連続テレビ小説には、 “戦争の時代”が描かれてきた作品がある。
「花子とアン」「エール」「ブギウギ」、そして去年放送された「虎に翼」でも、戦争は登場人物に大きな影響を及ぼしていた。そんな過去作以上に「あんぱん」では、戦争の時代をじっくりと描いているような印象を受ける。
そこまで深く、丁寧に描かれているのはなぜか、倉崎憲CPはこう語る。
2025年は「放送100年」であると同時に、「戦後80年」。
この節目の年に、やなせたかしさんの物語を連続テレビ小説にしたいと考えた。
やなせさん自身、戦場でいちばん辛かったのは空腹だったという記憶が、アンパンマン誕生の大きな要因になっている。
その観点からも、やなせさんが数年にもわたり出征していたという事実を大切に扱うべきだと考えた。
やなせさんが経験された戦争というものをこのドラマの中できちんと描かないのであれば「あんぱん」をやる意味はないと考え、「戦争パートはちゃんと描こう」と決めていた。
この「あんぱん」が持っているテーマは「一度きりの人生、全員に平等に与えられている命をどう生きていくのか」ということ。
もしかしたら「朝から戦争の話は見たくない」「重すぎる」という声が上がるかもしれないが、これはやるべきことだと判断し、中園ミホさん、演出陣を含めたチームとして、1年以上前から覚悟を決めてやってきた。
生きる喜びを描くために、悲しみもちゃんと描いていく。
“逆転しない正義”とは何かをドラマのなかだけでなく、いまを生きている出演者もスタッフも一人一人が自分たちにも問い続けているし、世の中にも問い続けていきたい。
配信の時代になった今、一日のなかでいつでも観られるし、「あんぱん」は海外でも放送だけでなく、一部地域ではその国の言語で配信もされている。
これは日本だけの物語でなく、世界へ向けた物語なのだ。