論語塾のため、麟祥院でお借りする部屋には、
矢野住職の手によって、毎月掛け軸は架け替えられている。
今月は、幕末の儒学者、佐藤一斎の直筆になる書。
細かい字が並んでいるが、有名な「身体髪膚之を父母に受く」の一節が書かれている書だ。
身體髮膚、受之父母。
身体髪膚、之を父母に受く。
不敢毀傷、孝之始也。
敢えて毀傷(キショウ)せざるは、孝の始めなり。
人の身体、髪、皮膚、ありとあらゆるものは、父母より受けたものである。自分勝手に身体、髪、皮膚、などを傷つけてはいけない。それが孝の始めである。
出典は『孝経』第一章。【孝】について、孔子が弟子に説明しているところに出てくる。
このほか、この日教わった四文字熟語の中には、
よく知っている言葉、興味深い言葉があった。
一字千金
一つの文字がとても貴重だという意味。
秦の時代の宰相が、文書の内容に一文字でも誤りがあれば、千金を与えようと誇らし気に言ったという謂れから。
四面楚歌
あらゆる方向から楚の国の歌が聞こえる。楚の項羽が、漢の劉邦に敗れ包囲されてしまう。項羽の本国楚の人も敵に回った。
誰も協力者がいない時に、現代でも使う。
夜郎自大
野郎ではない。夜郎という小国の王が、自分の実力を弁えず、自分の国は大きいと思っている。
曲学阿世
漢王朝の時代の御用学者に対して「学問的真実を曲げて世間のおもねることがあってはならない」と批判した言葉から。
吉田茂が政府の方針に反対した学者を非難した際、使った。
五里霧中
夢中ではない。霧中だ。五里四方が霧に包まれ状況が把握出来ないこと。後漢の時代、五里四方に霧を発生させることが出来る術を使う男がいたという伝説に基づく。
何千年も前の言葉が、今も息づく不思議。
佐藤一斎の書