映画『雪の花』は、
天然痘が猛威を振るった江戸末期に実在した町医者の物語。
コロナ禍を経た今の時代と通ずるものがある。
主人公の笠原良策(松坂桃李)は、天然痘の治療法を探していた。
異国で予防接種が普及していることを知り、国内でも実現するために奔走する。こういう人物がいたことを寡聞にして知らなかったが、誇らしい気持ちになった。
天然痘にかかった人は山中の小屋に閉じ込められ、遺体になっても町の人々から避けられる。隔離のやり方や、未知の病の強い感染力に人間が感じる恐怖というのは、今も昔も変わらない。
腰の重い役人や蘭学を信用しない人たちに対して、笠原は毅然と説得を続ける。未曽有の危機の中で、医師として命を守りたいからこそ困難にも果敢に挑む。
接種に必要な「苗」を体内に持つ子どもを、大人たちが吹雪の中で必死に守り続ける場面は圧巻だ。
小泉堯史監督作品は、『蜩の記』『峠 最後のサムライ』『散り椿』などを見てきたが、人の感情の機微の捉え方が素晴らしい。監督は「美しい物語と美しい人間を描くために映画を作っている」という。
主演の松坂桃李さんは、笠原良策の実直さを好演していた。
芳根京子さん演じる妻の千穂は、「強さと優しさ」を持ち合わせ、やるべきことを見定めて夫を支える。
笠原の師、日野鼎哉を演じるのは役所広司さんの存在感は言うに及ばずだろう。
こういう日本人がいたということを、少しでも多くの人に知ってもらいたい。