水中写真家の中村征夫さんの写真展最終日に駆け込んだ。
中村征夫さんは、中村征夫さんのままだった。
79歳のいまも、海の中に潜っている。
水中の過酷な環境に身を置きながらも、優しい眼差しで、
海の中の「いのち」を写し出す。
自分の写真を、いかにも嬉しそうに説明してくれる。
やんわりじんわりなごむ。
中村さんが初めて水中を覗いたのは、小学校3年生のとき。
八郎潟で、逆光で見た小鮒の姿は忘れられない。
この時の体験がこの世界に入った原体験といえる。
そして、19歳。真鶴の海に潜ったとき、小3の体験が蘇った。
まるで万華鏡を覗くかのように千変万化する海中景観に目を奪われ圧倒された。
31歳からフリーランスとして活動してきた。
海中景観の中にダイバーを配し、海と人物を一体化することで、「母なる海の温もり」を表現しようとした。
いつも「予感」と「余韻」を念頭に置いてファインダーを覗いてきた。
予感を働かせ「いまだ!」とシャッターを切る。そして「余韻」を楽しむのだ。作品から時間の流れを感じ、前後の物語を連想してもらう。
中村さんは、生んでくれた母を知らない。
中村さんが誕生後2週間で亡くなった。
だが、これまで中村さんが岐路に立ったとき、「お前の知らないところで、必ず見てくれている人がいる」という母の声が幾度となく聞こえた。
その都度、 母の声に背中を押されてきた。
このたびの新刊写真集、写真展のタイトルは「MOTHOR」。
征夫さんのいろんな想いが込められている。
知床に生息するササキテカギイカ。
他の生物に食われ、身体ボロボロになりながらも
産卵を続ける。まさにTHE MOTHOR。