銀杏手ならい | 村上信夫 オフィシャルブログ ことばの種まき

村上信夫 オフィシャルブログ ことばの種まき

元NHKエグゼクティブアナウンサー、村上信夫のオフィシャルブログです。

直木賞作家の西條奈加さんの作品を初めて読んだ。

主人公の萌のことがいとおしくなる。

寺子屋の傍らにたたずんで、子どもたちに声をかけている気分になる。

「金色の小さな扇を敷き詰めたかのよう」

「風が吹くたびに、しゃらしゃらと可憐な葉擦れの音がした」…

場面場面で見事に変わる銀杏の描写も素晴らしい。

 

子どもを授かることができず、

離縁され嫁ぎ先から出戻ってきた主人公・萌(もえ)。

父・承仙(しょうせん)の手習所「銀杏堂」を引き継ぐことになった。

だが、子どもたちへ想いが伝わらずに行き違いが生じる。

そんなある日、手習所の前に捨てられていた赤子を引き取り育てる決心をした萌は、手習いに来る一人一人の子どもたちに寄り添い続けようと決意する。子を育てることは、子に育てられることなのだと知る。

 

解説で書評家の吉田伸子さんが書いていることに、大いに納得する。

AIが普及し、簡単便利が浸透したことで、失われたことのいかに多いことか。特に「心の襞」がどこかに消え失せてしまった。

時代小説には、我々が失ってしまった世界、失ってはならない人情がある。

子どもたちは、いつの世でも、社会の「希望」だ。その希望を育むのが教育だ。江戸時代は、「それぞれの身の丈に合った」教え方をした。

算術は苦手だが読み書きは得意、読めないけど習字や絵画は得意、

学問より工作が得意…一人一人の「得意」を伸ばした。「出来ることがあると気づかせる」ように育む。

今より制約の多い時代に暮らしながら、背筋を伸ばし、互いを思いやり、前に進んでいく人たちが眩しくみえる。