追悼・吉岡幸雄さん | 村上信夫 オフィシャルブログ ことばの種まき

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元NHKエグゼクティブアナウンサー、村上信夫のオフィシャルブログです。

染織史家の吉岡幸雄さんが急逝された。享年73。

20年ほど前、NHK「おしゃれ工房」で初めて知己を得てから、

伏見の工房にも何度かお訪ねし、東京で展覧会があればお伺いした。

鎌倉・円覚寺の講演も拝聴した。

日本文化に対する奥深い洞察に、いつも感銘を受けていた。

その含蓄が聴けなくなるのは、惜しんでも惜しみきれない。

 

吉岡さんは、江戸時代から続く染屋の五代目。

草や木から色をいただき、絹や麻、和紙などを染めることを生業としてきた。現代は、衣裳の色彩と文様は、そのほとんどを化学染料に頼っているが、吉岡さんは、すべて植物染料。草木の花びら、実、幹、樹皮、根などにひそんでいる色素を汲み出す。さらに木の灰、藁灰、土中にある金属などもたくみに操ってきた飛鳥天平の昔からの伝統を現代に蘇らせてきた。

このような伝統的な技法は、由緒ある寺社の行事に役立てられて

た。奈良・東大寺のお水取りは、1200年あまり前から、1年たりとも途絶えることなく続けられている。十一面観音には和紙による椿の造り花がささげられるが、その染色に毎年携わってきた。寒くなると、3キロもの紅花を使って赤い色を染める。水で黄色い色素を洗い流し、藁灰からとった灰汁で揉み続けて赤い染料をつくる。さらに米酢や熟した梅の実を燻蒸した烏梅の水溶液を加え、鮮やかな椿の花びらの色に和紙を染めていく。

西の京の薬師寺の花会式の造り花、京都の石清水八幡宮の放生会での造り花も毎年奉納してきた。

東大寺や薬師寺の法要のおりに演じられる伎楽装束一切の制作は、正倉院宝物などを復元しながら、天平の色と技法を現代に甦らせてきた。

自然に育まれた植物から、いかに美しい色を生み出すか、丁寧に丁寧に染色と向き合う工房には、いつもゆったりと静かな時間が流れていた。自然の恩恵に感謝しながら、奈良や平安時代の職人に畏敬を抱きながら、仕事を続けてきた。

 

吉岡さんは、日本の伝統的文化を育み、バトンを渡すことを考え続けてきた。そのバトンは、6代目になる娘の更紗さんに確実に渡された。

 

(去年2月、工房をお訪ねしたとき)

(五代目と六代目)