あきらめる、そしてがんばる | 村上信夫 オフィシャルブログ ことばの種まき

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元NHKエグゼクティブアナウンサー、村上信夫のオフィシャルブログです。

鎌田實さんは、「がんばらない」「あきらめない」の人だ。

だが、大橋洋平さんは、「あきらめる」そして「がんばる」人だ。

 

愛知県の海南病院で緩和ケア医をしている大橋洋平さんは、

自らが、がんに罹患してしまった。

それも10万人に1人罹るという希少がんの「消化管間質腫瘍」。

手術で胃をほぼ全摘し、抗がん剤の副作用に苦しんだ。

医師なのに、点滴、胃カメラ、輸血採血、抜歯、苦い栄養剤・・・

苦手なことばかり。それを患者さんに強いてきたことを反省する。

誰よりもがん患者とその家族に寄り添える医師だと思っていたが、

それは幻想にすぎなかったことを痛感する。

「がんになってもよりよく生きる」とかいうが、「よりよく」など無理と、実感する。

 

今年4月、肝臓に転移がわかる。

そのとき、大橋さんは思った。

「余命に意識を向けるのではなく、今日から過ごせた日を数えていこう。引き算ではなく足し算でいこう」

「かっこうつけずに、わがままに超自己中に生きていけばいい。大いに患者風を吹かせ、しぶとく生きていこう」

「生きられる限り、人間らしく煩悩の塊で生きていこう」

そんなふうに思えたことで、余計な力が消えた気がした。

 

がんになるまでは、患者さんに「がんばらない、あきらめない」と言ってきた。だが、いまの境地は、「あきらめる、そしてがんばる」。

今までの希望はあきらめて、これからの希望を頑張る。

死ぬために生きるのではない。生きるために生きるのだ。

今まで出来たことはあきらめて、今出来ることを頑張ればいいのだ。

 

大橋さんが、生きる目標の一つとして書き上げた本は、

ただ単なる闘病記ではなく、懸命に生きる力を与えてくれるものだ。

 

大橋さんに電話インタビューした。

電話口の声は、明るく弾んだ声だった。

丁寧な誠実な人柄が滲む声だった。

9月22日の文化放送「日曜はがんばらない」で放送予定。