葉室麟さんが伝えたかったこと | 村上信夫 オフィシャルブログ ことばの種まき

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元NHKエグゼクティブアナウンサー、村上信夫のオフィシャルブログです。

作家・葉室麟さんが亡くなったことが

惜しんでも惜しみきれない本を一気に読んだ。

葉室さんの遺作『暁天の星』が、未完のまま刊行された。

主人公は、陸奥宗光。不平等条約改正に心血を注いだ男だ。

坂本龍馬にその才を評価され、自身も龍馬を師と仰いだ。

 

葉室さんの作家デビューは、2005年。齢五十を過ぎていた。

亡くなった2017年までの12年間に60冊を超える出版をしてきた。

『月刊葉室』と呼ばれるゆえんだ。

地方紙記者としての経験から、組織が犯す過ちから目を逸らさず、

弱い人への温かい眼差しを向けてきた。

人の立つ瀬を見い出してきた。

最後の小説でも、陸奥宗光の「立つ瀬」を描いた。

「自分は暁に輝く明けの明星として、国家の行く末を照らさねばならない」と、陸奥に言わしめている。『暁天の星』のタイトルの意味が明らかになったところで、物語は途絶えた。

国家というものは、国民を不幸にするものであってはならない。

最大多数の最大幸福を目指すものだという記述もある。

陸奥が言っていることは、作者の想いだ。

主人公の理想の先に、作者の求める日本がある。

江戸を描いてきたのは、

明治以降の日本人を問うためだったのではないか。

この先、『暁天の星』がどんな物語を紡ぎ、

陸奥に何を語らせたかったのか、

葉室さん自身が暁天の星となった今、

空を見上げながら想いを巡らせるしかない。