水増す雨の… | 村上信夫 オフィシャルブログ ことばの種まき

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元NHKエグゼクティブアナウンサー、村上信夫のオフィシャルブログです。


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仲のよかった男と女が、ささいなことで喧嘩した。

「何かは言ふにも甲斐なし。今は!」

何を言っても話にならん!もうこれっきりだ!と、怒った男は

女の家を出て言った。

雨がしとしと降る翌日、男から女のもとに手紙が来た。

そこには、たったの五文字で「水増す雨の」とだけ書かれていた。

これを読んだ女は男と仲直り。メデタシメデタシ。

 

これだけでは、なんのことやらさっぱりワカラン?

これは枕草子の中に出てくるお話。

平安時代の男女は、和歌で愛を交わしあっていたが、

こうして、みなまで言わなくても、和歌のことばの五文字を見ただけで

相手も想いを斟酌出来る教養があったということだ。

またその教養がないと、男女交際も出来なかったということだ。

「雨が降ると水が増すように、君への想いは募るよ」と言われたら、

前日の喧嘩のことなど忘れてしまう。

喧嘩別れしたあとは、「ごめん」と謝るより、愛のことばを告げたほうが

効果的なのだ。

と、教えてくれたのは、平安文学の研究で知られる日本語学者の

山口仲美さん。

 

自分磨きシリーズの一環で、先日(3月30日)、山口さんの講演

「言葉から迫る平安文学」を聴講してきた。

源氏物語や枕草子、蜻蛉日記など、山口さんが調べた豊富なサンプルをもとに、平安時代の男女間のやりとりを面白く語ってくれた。

ケースごとに、あなたならどういう立場を取るか、会場に挙手を求めながら、参加感あふれる内容だった。

簾内にいる女性に、まだ夜も暗いうちから口説きに行く男性。

相当のコミュニケーション力が問われた。

告白したり、弁解したり、ご機嫌をとったり、警戒心を緩めたり、

なだめたり、それはそれは男たちは言葉巧みであった。

それは現代にも通用する知恵の宝庫とも言える。

 

山口さんとは、清流で対談して以来、5年ぶりだ。

事前に行くとは伝えず、講演終了後、顔を合わせたら、

やはり驚きもされず、「あー来てたの」的な反応だった。

もっと「ことば巧み」に迫るべきだったか・・・。

 

(月刊清流2014年7月号対談時)

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