左手のピアニスト、舘野泉さんは、どこまでも前向きだ。
15年前、脳溢血で、右手が使えなくなった。
ピアニストとして致命的なアクシデントに見舞われても、
絶望はしなかった。
リハビリも楽しんだ。新しい体験に夢中で、
絶望している暇がなかったそうだ。すごい人。
あるがままを受け入れてきた。
落ちた地点を自分の現状と考え、
地点が変われば好奇心が大きくなると考えられる人だ。
自分の可能性がどんどん広がっていくことが、
たまらなく嬉しいと思える人だ。なんていう人だ。恐れ入るばかり。
日々、未知の領域に足を踏み入れ、毎日が新鮮だという。
決して慌てない。焦らない。機が熟すまで待つ。
人生には、熟成させる期間が必要なのだ。
左手でピアノを引き出すまでに1年半のブランクがあったが、
それだけの空白が必要だったと述懐している。
フィンランドで出会った女性と恋に落ち、結婚するが、
出会ってから恋愛関係になるまで時を要した。
これも、必要な時間だったと述懐している。
芸大受験に落ち、1年の浪人生活を余儀なくされた。
これも人生に必要な時間だったと振り返る。
ポジティブな面しか目に入らない人らしい。
自分に起きる出来事は、すべて必要だから起きることで、
それを受け入れ、熟成を待っていれば、
いいことが向こうからやってくるという考えの持ち主だ。
「熟成」「必要」というキーワードが、この本の中に再三出てくる。
舘野さんは、いつも「瞬間を生きている」。
あるのは、「今の自分だけ」。
どんなに称賛されても、次の日には、どんな演奏をしたのか、
まったく覚えていないそうだ。
次の日には、結果を忘れて、また新しい日が始まる。
今を生き生きとしている舘野さんは、かっこいい。
舘野さんは、天国は退屈な場所だと思っている。
だって何もしなくてもいいのだろうから。
だから、いま、この時、この瞬間を生きている。