名著「人を動かす」にある詩なのだが
子供ができるまではピンとこなかった
子供ができた今読み返したら
涙が出てきそうになった
子供が出来たらお読みください
父は忘れる
リヴィングストン・ラーネッド
坊や、きいておくれ。お前は小さな手に頬をのせ、
汗ばんだ額に金髪の巻き毛をくっつけて、安らかに眠っているね。
お父さんは、ひとりで、こっそりお前の部屋にやってきた。
今しがたまで、お父さんは書斎で新聞を読んでいたが、
急に、息苦しい悔恨の念にせまられた。
罪の意識にさいなまれてお前のそばへやってきたのだ。
お父さんは考えた。これまでわたしはお前にずいぶんつらく当たっていたのだ。
お前が学校へ行く支度をしている最中に、
タオルで顔をちょっとなでただけだといって、叱った。
靴を磨かないからといって、叱りつけた。
また、持ち物を床の上に放り投げたといっては、どなりつけた。
それから夜になってお父さんが書斎で新聞を読んでいる時、
お前は、悲しげな目つきをして、おずおずと部屋に入ってきたね。
うるさそうにわたしが目をあげると、
お前は、入口のところで、ためらった。
「何の用だ」とわたしがどなると、
お前は何もいわずに、さっとわたしのそばに駆け寄ってきた。
両の手をわたしの首に巻きつけて、わたしに接吻した。
やがて、お前は、ばたばたと足音をたてて、二階の部屋へ行ってしまった。
ところが、坊や、そのすぐ後で、お父さんは突然なんともいえない不安におそわれ、
手にしていた新聞を思わず取り落としたのだ。
何という習慣に、お父さんは、取りつかれていたのだろう!
叱ってばかりいる習慣-まだほんの子供にすぎないお前に、
お父さんは何ということをしてきたのだろう!
決してお前を愛していないわけではない。
お父さんは、まだ年端もゆかないお前に、無理なことを期待しすぎていたのだ。
お前を大人と同列に考えていたのだ。
お前がこのお父さんにとびつき、お休みの接吻をした時、
そのことが、お父さんにははっきりわかった。
ほかのことは問題ではない。
お父さんは、お前に詫びたくて、こうしてひざまずいているのだ。
お父さんとしては、これが、せめてものつぐないだ。
昼間にこういうことを話しても、お前にはわかるまい。
だが、明日からは、きっと、よいお父さんになってみせる。
お前と仲よしになって、一緒に遊んだり悲しんだりしよう。
小言を言いたくなったら舌をかもう。
そして、お前が子供だということを常に忘れないようにしよう。
お父さんはお前を一人前の人間とみなしていたようだ。
こうして、あどけない寝顔を見ていると、やはりお前はまだ赤ちゃんだ。
昨日も、お母さんに抱っこされて、肩にもたれかかっていたではないか。
お父さんの注文が多すぎたのだ。