秋晴れの中、東京芸術祭の目玉プログラム、東京駅の赤煉瓦造りの駅舎を背景に借景しての野外劇、SPAC宮城聰の代表作「マハーバーラタ〜ナラ王の冒険」を観た。

 

大手町のオフィス街に特別に設置された舞台で、大型バスや車が忙しく行き交う喧騒の中、インドの古代叙事詩を描いた祝祭劇が日々の忙しさに疲れた人々の心を癒した。

 

 

***** 演劇サイト より *****

 

『マハーバーラタ』を通して 世界と出会う
古代インドの国民的大叙事詩のなかで最も美しいロマンスといわれる「ナラ王物語」。
『マハーバーラタ ~ナラ王の冒険~』は、その物語を日本の平安時代へスリップさせ、美しい舞台絵巻へと昇華させた宮城聰の代表作です。
2023年秋、世界が再演を熱望する本作は、東京のランドマーク東京駅を背景に行幸通りに舞台を移し、生演奏と俳優たちの動きと語りが三位一体となった天上の祝祭劇・東京芸術祭2023バージョンでお届けします。

***************

 

マハーバーラタ初演から20年、これまで東京国立博物館特設劇場、そして静岡の駿府城公園に造られた野外ステージ、伝説となったフランスアヴィニヨンの石切場での上演。。。。とさまざまな場所で観続けてきた宮城「マハーバーラタ」。

今回はその上演史に新たな道を開けたと言えるのかもしれない。

 

宮城は自身の劇団ク・ナウカ時代から、誰よりも早くから劇場のハコを飛び出し広場や公園、博物館の空きスペースなどで公演を行なってきた。その姿勢は海外でも同じで、ギリシャ、デルフィの古代競技場、チベットの街角などの野外で上演、日本からの芝居を見に集まってきた現地の観客たちの心にその視覚的にとても美的な舞台を刻んできたという経験がある。そして、それらの体験の影響はク・ナウカ時代からともに創作を続けてきた役者たちの身体にも深く残っているものと思われる。

 

今回の東京駅前での野外公演はそんな彼らの積み上げてきたものが実り多い結実となったことを確認できる、本当に嬉しい晴れ舞台だった。

 

まず、演劇という芸術は多くの要素=多くのアーティストたちの力が合わさった時にそのえも言えぬ魔法の力を発揮して、観客に忘れられない何かを残すのだということを再確認させてもらった。

SPACのマハーバーラタに関して言うと、演劇の核である、台本(久保田梓美)・演出(宮城)、演技(俳優たち)の他に、棚川寛子の音楽とそれをライブ演奏する演者たち、衣装(高橋佳代)、おり紙様式の美術(深沢襟)、会場にあわせた空間構成(木津潤平)、、とスタッフ欄に名を連ねている人たちの各々の仕事がしっかりと目に見えて、そしてその素晴らしさがなければこの瞬間は味わえないな、と思わせてくれていた。

— 傑作舞台の上演とは言えところ変われば、、で今回の舞台にあわせた細かい変更が施されていた。

 

そして、そこに加わるもう一つの要素ー>観客、それも新たな観客がこの舞台の意義を高めていた。

 

と言うのは、今回、この写真にあるように椅子に座って鑑賞しているのがこの上演を観るためにチケットを購入した観客たちで、その周りで携帯のカメラを向けているのが通りがかった一般市民 — 多くが海外からの観光客だからだ。

仕切られた観客席エリアの外は公道になっているので、立ち見ならばいくらでもその場で芝居を観ることができる。

訪れた日本で偶然目にした古代叙事詩のものがたりの芝居。心はずむパーカッション演奏と見目麗しいナラ王(大高浩一)と王女ダマヤンティ(美加理)の立ち姿。。。

想定外の出会いがその人たちに忘れがたい何かを残すなどと言うことが起こることは容易に想像できる。

 

それにしてもその主役のお二人の神々しいこと!

思わず、手をあわせたくなるほど、、ありがたや〜〜〜。