久しぶりの駒場アゴラ劇場で山田百次が作・演出を務めるホエイの「ふすまとぐち」を観た。

 

山田百次が所属するもう一つの劇団「劇団野の上」で2010年、2012年に上演された作品で筆者は今回が初見。

 

東京人への遠慮なしのマジな津軽弁—特に山田が演じる一家の主人、姑キヨが話す津軽弁を一言一句理解するのは無理!—で演じられるため、上演前には津軽弁クイズと称して、プロデューサー(で作品によっては出演も)河村竜也による簡単な津軽弁講座が開かれていた。

 

例えば、「ワ」は私、「ナ」はあなた、「めぐせえ」は恥ずかしい、の意味ということだが、キヨの弾丸トークにこれらが交じると、その会話の中から彼女が言いたいことのヒントとなる糸口を見つけるのは砂の中のコインを探すようなもの。

それでも、表情豊かにベラベラと子供たちにむかってまくしたてる彼女の姿を見るのはとても楽しい。

 

****あらすじ****

 

キヨを一家の長とする家には、その息子夫婦、出戻りの娘とその娘小幸(キヨの孫)が一緒に暮らしていた。家族の失態を大声で咎めるキヨ、そんな彼女の暴走ぶりを誰もとめることが出来ない。そんな一家の嫁である桜子(三上晴香)は姑キヨの嫁いびりに心を痛め(劇中ではその部分は出てこないがおそらくそれが原因であることは明らか)、ついには家の奥の奥、押入れの中に逃れ、そこに立て篭って出てこないという状態にまで追い詰められている。

劇の前半、その押入れの襖が開くことはなく、中から桜子の声にならない声、襖をドンドンと叩く反抗の音だけが聞こえてくるといった演出で、そこにあるものの切迫した状況が伝わってくる。

 

大人たちがそれぞれの逃げ場所を画策したり、問題解決に無関心である中、小学校6年生の小幸(井上みなみ)だけが非力ながらもみんなが仲良くなる、おばさんの桜子が押し入れから出てくるのにはどうしたら良いかと悩んでいる。

 

一方、暴君であるキヨにも家の外ではそれなりに人間関係での悩み、気遣いがあるらしいことも見えてくる。

新興宗教めいた団体「早起きの会」に頼り、家族の問題=桜子の籠城を解決することを依頼したりしているのだ。

 

そんな折、いよいよ家族の崩壊か?と思われた矢先に思いがけない不幸がキヨの身体にふりかかる。その段になって、桜子に憎き姑に対しての思いがけない感情が生まれる。家族だから、長年衣食をともにしてきた人間同士だからこその感情が。

 

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近しい人の間での赤裸々な感情、関係、それらを多角的な視点で描いた人間ドラマ。感情豊かでパワフルな登場人物たちの言動に笑いながら、時に我が身を振り返る。