東京芸術劇場シアターイーストで前川知大率いる人気劇団、イキウメの「関数ドミノ」を観た。

 

その独創的な発想—この世には「ドミノ」と呼ばれる思い通りのことを引き起こすことのできる(本人に自覚がないとしても)特殊な力を持った人間が存在し、そのドミノの特権はある時、前触れもなく備わり、そして期限付きのため本人も含めドミノの存在を特定することは難しい—、そしてその鮮やかに観客の予想を裏切るラストから毎回大きな反響がありその好評を受け2005年、2009年、2014年と定期的に上演され続けてきた劇団の代表作の一つとなっている。

ちなみに戯曲の強さもあり、2017年にはワタナベエンターテイメントの企画・制作で劇団外の、寺十吾演出での上演も果たしている。ーーー>筆者は09年、14年、そして17年の舞台を観劇していて、やはり最初に観た時の開幕直後から話に引き込まれたストーリーの面白さの衝撃は強く印象に残っている。17年の舞台は劇団とは違った色の役者による舞台で、それによる見え方の違いも大いに楽しんだ。

 

撮影:金子愛帆

 

基本的に同じ戯曲の再演(09年と14年版ではラスト、そして細部に若干の違いがあり)とは言え、毎回全く同じ翻を使っているわけではなく、ちょっとばかり起きている事象に対する視線(語る人物)を変えてみたり、それぞれのキャラクターの強弱を変えてみたりしている。

 

今回は今現実世界で起きているネット上での情報操作、フェイクニュースに対して人々が起こす反応、その捉え方の違いについて考えてみようと呼びかけている。かつては「奇跡」は人々の言い伝え、それを聞いて信じる人たちの心の中で生き続けてきたものだが、今は公然と「奇跡」がネットやSNSで流され、一瞬にして大きな情報の波となり拡散していく、と。

 

その意図は、冒頭、ドミノを追う真壁(安井順平)のモノローグで語られる。

 

「スーパーマンは実在する。世界を変えることは可能です。僕たちはいつの間にか、信じることがとても下手くそになってしまった。。。彼は言っています。。。誰もがスーパーマンになれると。これは比喩ではなく、言葉通りの意味です。」

 

その真壁を演じる安井の感情をコントロールした演技が良い。その対極にある謎の男、安井にドミノだと信じられている左門森魚(浜田信也)の心の内側が読めない、掴みどころのない人物—実のところ物事を深く考えないだけの本当に軽い男?!—、周りで不思議なことが起きているにもかかわらず、時に一人だけ別の世界にワープしてしまっているような、その佇まいがこの劇を成り立たせている。

 

女性の目撃者たちのキャラ、物語への関わり方が少し弱いのが気になった。

 

大きな物語については既に観て知っているので、正直その分の驚きはあまり期待できないものの、反面人々の内心、わからないものへの構え方の差異については毎回様様な発見をさせてくれる。

とにかく、劇場内の観客の集中度はとても高く、観ていない人には今回こそ「観るべき1本」としてお薦めしたい。