2022年のふじのくにせかい演劇祭最後の締めくくりで、回遊型演劇の「星座へ」に参加した。

 

南アフリカの演出家ブレッド・ベイリー氏の演出ノートを翻訳。その文が当日パンフに掲載されたのだが、その文から抜粋して、内容を簡単に紹介すると、このようになる。

 

「パンデミックによるロックダウンの間じゅう、私はどうしたら儀式としての焚き火のような演劇作品を創り出すことができるのかということを考えていました。人々が暗闇で集い、物語や映像、パフォーマンス、そして音楽を体験するといった、夢のような強力なエネルギーを持った、刻一刻と変形していくようなイベントをです。

 

そこでベイリーは彼が暮らす南アフリカのスピアー農園で、参加者たちがいくつかの小さな焚き火を囲んで詩人、ダンサー、ミュージシャンなどが繰り広げる30分ほどのパフォーマンスを3つ/一晩みるというイベントを企画したと言う。(冒頭の写真を参照)

 

「この作品ではマイク、電気照明、音響機器などあらゆる電子機器の使用を制限することにしました。何千年もの間、人間社会で行われてきたパフォーマンスを体験することで、我々の遠い昔の祖先と繋がることができるのです。

 

「私はこの作品に関して、演出というものをほとんど施していません。アーティストには30分ずつのセッションを一晩に3回行ってもらいますが、その内容に関してはアーティスト当人に任せています。。。

自然の中では都市や村、劇場やコンサートの約束ごとは通用しません。」

 

このSPACでの公演は南アフリカ版をSPACの舞台芸術センター近辺の日本平の森の中へと場所を移し上演する企画として、必然的にパフォーマーたちは日本での上演にあわせSPAC所属の大岡淳がキューレーションをした日本のアーティストたち—ミュージシャン、人形つかい、マイムアーティスト、俳優、詩人、声楽家 などなど—が務めていた。

 

あたりが薄暗くなり始める時間、17:30に東静岡の劇場前をバスに分乗して出発、森の入り口に着いたところからは砂利道、舗装されていない道を森の奥へと向かって歩を進め、5~10分ほどでパフォーマンスが行われる地帯の入り口に到着。10人ずつぐらいのグループに分かれ(参加者は全部で100名弱)、ガイドの道案内に従い、木々が生い茂る森の中へと進んで行く。

 

 

↑こんな感じの道を行く

 

列をつくって自然の山道を進んでいくのだが、その時間の経過とあわせパフォーマンスの舞台となっている森の中は夜の暗さが増してくるので、参加者たちは防寒着を着込み、手に懐中電灯を持って、これから出会うであろう舞台への期待を膨らませていくこととなる。

森に入ったら、私語は禁止、それぞれの参加者が各々の感性でこの作品を感じること、それだけが参加者に課せられたルールだ。

 

3つの違った組み合わせでパフォーマーが構成されているのだが、私の場合、幻想的な森の中でまろやかなグレゴリア聖歌(?!)の歌声が響く声楽家、そして昔話を情緒あふれる方言と小さな身体をいっぱいに使ってのパフォーマンスで大変面白く聞かせてくれた美加理による読み聞かせ、そしてシャーマン的な雰囲気で観客たちが見つめる小さなステージを支配していた詩人(?!)のパフォーマンスという3演目だったのだが、それぞれに趣向が違っていたので楽しい時間を過ごすことができた。

何と言っても美加理のパフォーマンスにあたってラッキー!と思ったのが正直なところ。

(もちろん)仕切りのない空間なので、近くから聞こえてくる美加理の声を聞きながら別の場所でも思い出し笑いが溢れた。

 

 

 

今年、2022年のふじのくに演劇祭が終わって(今年は前半の2演目が見られずじまいとなったのだが)振り返ると、全体を貫くテーマがはっきりと、それも身体に染みる感覚として伝わってきたように感じた。

 

なぜ、人々は古代から変わらずこのアートフォーム・演劇を享受し続けてきたのか。その変わらぬ魅力を実感し、その恩恵に感謝する、そんな春の演劇祭だった。