君の深いところに響いている 17




オレね、松岡さんとまーくんの関係が知りたくて、いろいろ聞いたんだ。


もちろん、松岡さんは決定的なことは言わなかったよ。2人がどういう関係だとか、自分がまーくんのことをどう思ってるとかさ。


でも、まあ、うっすらと想像は出来た。だけど、後々まーくんが松岡さんとのことを『セフレみたいなもん』なんて言い方をした時はショックだったな。


肉体関係があったんじゃないかって覚悟はしてたよ。だけど予想してた、ってことと、それが本当に確定するってことは全然違っていて、また別の感情に襲われるんだってことを知った。


ああいう負の感情は、あんまり味わいたくない。だけどそれとは別に、松岡さんに対してそんな言い方をするまーくんに腹が立った。


いや、違うな。腹が立ったわけじゃない。なんかさ、あの時は松岡さんに申し訳ないって思ったんだ。


まーくんが、オレのこと好きって言ってくれて、恋人同士になって、さあ、次のステップに進もうか、なんてさ。完全に松岡さんのことを置き去りにしてたもん。あんまり考えたくなかったんだろうな。オレが松岡さんからまーくんを奪ったような気がして、どっかで罪悪感があったんだよ。


だから、まーくんに腹を立てることで帳尻を合わせようとしたのかもしれない。


それとね、まーくんはちゃんと知るべきだと思ったんだ。そうでないと、オレたちは前に進めないような気がした。


まーくんが松岡さんと話をしてくるってオレに言った時さ、ほんとは不安だった。あの人の気持ちを知って、まーくんの心が揺れたりしないだろうかって。戻って来なかったらどうしようって。


ああ、でも、この気持ちはもう話したことだよね。あの時、ちゃんとまーくんに伝えた。だから、話を元に戻すね。松岡さんと食事に行った時の話に。



その時、オレは松岡さんにねだって、まーくんの写真を何枚か見せてもらった。松岡さんのスマホの中にあった写真。


どのまーくんも、何だか哀しそうで、淋しそうだった。笑っている写真すらも。


空虚な黒い瞳は暗くて、光を映していなかった。誰も信じてなくて、誰も愛してなくて、誰にも心を許してないみたいな。







この人、どうして、こんなに淋しそうなのかな? いろんなことをあきらめて、深い海の底でひっそりと生きてるみたいに見える。


オレはつぶやくように言った。


松岡さんは驚いたようにオレを見た。写真を見ただけで、なんでそんなことがわかるんだろうって思っただろうね。


そうだな。こいつがいろいろ悩んでることは知ってるんだけどな、俺は何もしてやれねえんだ。俺が出来ることは、こいつが悪いやつらの餌食にならないようにすることと、見守ることだけだ。



松岡さんは、少し歯痒そうに、少し淋しそうに言った。



見守るだけ、って。また中途半端なことしてるんだね。踏み込めないのは年齢のせい?  そりゃあ、順番で言ったら松岡さんの方が早く死ぬよね。愛があれば年の差なんて、とか言うけどさ、現実問題、いつまでもそばにいられるわけじゃないし。それに松岡さんは超多忙だし。あなたを必要としてる人が他にもいっぱいいる。だから仕方ないんだろうけどさ、だけど、たまに手を差しのべて、その時だけ甘やかすってのは、却って罪かもよ? 先のことを考えたら、それが良いこととは思えないね。この人を余計にダメにするんじゃない?



オレは言ってやった。



松岡さんは、オレの言葉に少しショックを受けたような顔をした。




オレみたいに若かったらさ、ずっとこの人のそばにいられるよ。もしも俺が愛する人に出会ったら、中途半端なことはしない。その人のためなら人生だってかける。その人を幸せにするためなら何だってする。長生き出来るように努力もする。健康にも気をつけるし、危ないことはしないし、危ないものには近寄らない。あなたみたいに命を削って働いたりもしないし、無理もしない。免疫力を上げるためにいつも笑って、そんで笑わせてやる。いつもそばにいる。何でも共有する。嬉しいことは2倍になるだろう。哀しいことだけが半分になる、なんてことはないだろうから、それも2倍になるかもしれないけど、一緒に乗り越えるためにありとあらゆる方法を考える。ありったけの愛をそそぐ。見守るだけ、なんてことはしない。一緒に飛んでやる。




あの時、オレがぶちかました演説を、松岡さんは一体どう思っていたんだろう?



まるで宣戦布告だもんね。



あの日以来、オレと松岡さんが連絡を取ることはなかった。



松岡さんが、まーくんとも連絡を取ってなかったってことは、後になって知ったんだ。