君の深いところに響いている 16




松岡さんとは駅前で待ち合わせをして、そのまま歩いて店まで行った。


連れて行ってもらったのは隠れ家的な小料理屋で、落ち着いた雰囲気の個室に通された。


料理や酒の頼み方から、松岡さんの馴染みの店なんだなあって思ったよ。馴染みの店で、好みの料理とそれに合う酒を注文する。そういうのが大人っぽくてまたかっこよかった。


例えば、油ののった焼き魚にはひやを。刺身には冷酒を。厚揚げ焼きには焼酎のお湯割りを。




ジュースみたいだけどな、これは実は味噌の風味に合うんだ。



そう言って松岡さんがどて煮に合わせたのは綺麗なピンク色の液体だった。知ってる? バイスサワーって。下町の大衆居酒屋に置いてある飲み物なんだって。


興味津々のオレに、松岡さんはアルコール抜きのバイスソーダを頼んでくれた。飲んだら懐かしい味がした。おばあちゃんちで飲んだことがある、シソジュースの味だった。


こんなタイプのものまで好きだなんて、きっと相当な酒好きなんだなって思った。



この料理にはどんなお酒が合うの?

これは?これは?って、オレがあれこれ尋ねると、松岡さんはいちいち丁寧に説明しながらどんどん飲んだ。ほんとによく食べてよく飲む人だった。豪快なんだけど、それでいて粋なんだよなあ。


酒が進むと、松岡さんは饒舌になった。いろんな面白い話をしてくれたけど、五十嵐家の話になった時、オレはさりげなくまーくんの話へと誘導して行った。オレと同じ大学に通ってる息子さんがいるって先生からきいたけど、なんて言って。



以前、まーくんに、松岡さんと食事に行った時の話をしたよね。その時オレは嘘をついた。



松岡さんは酔っぱらって散々まーくんの話をしてた、なんて言ったけど、本当は違うよ。オレが根掘り葉掘り聞いたの。


まーくんの写真も見せられた、なんて言ったけど、本当はオレから見せて欲しいって頼んだんだよ。



腕時計の話もそう。松岡さんの方から腕時計の話をしたかのようにオレは言ったけど、ほんとはオレの方から腕時計の話を振った。


まーくんのこと、知りたかった。

それから、まーくんが松岡さんとどんな関係なのかも気になってたし。



でも、話を聞いてよくわかったよ。



あの人はね、本当にまーくんのことを愛していた。





🍀🍀🍀


ここに出てくる料理屋さん。

Your Eyes5-8でまーくんと松岡さんが行ったのと同じ店です。



ちなみにこのお店は他にも出てきてる。カノープスでは創作居酒屋って言うてるけど。まあ、同じような感じかな?


カノープス本編affection5

カノがふみくんと10年ぶりに再会して、ふみくんに誘われて行ったお店。


カノープス番外編も番外編

さしも草2

翔さんといぶき君がこの店でよもぎの天ぷらを食べるってやつね。


架空のお店ですけど。