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ハルユタカ、幻の小麦と呼ばれる所以 ~農家が離れていった~ 〜不遇の時代変化〜

前回に続いてハルユタカについて書きます。

パン用小麦としてのイメージが強いハルユタカですが

ハルユタカは他にもラーメン、うどん、ひやむぎ、そうめん、味噌などの原料に使われています。

麺が多い。ですね。

そう、誕生当時は「パン用」ではありませんでした。

 

当時の時代背景や人々の固定観念も作用していたのかもしれませんが

国産小麦でパンを作るという考えは、全く歴史が浅く始まったばかりなのです。

ということは

『 パン用 』という謳い文句がつくようになったのは、ハルユタカが最初?!ではないかということです。

 

国産小麦でパン用品種のハルユタカ ですが

もうひとつ、この小麦には「謳い文句」というか枕言葉がついていますね。

「 幻の小麦 」です。

今日は、生誕30年の歴史をおいながら、「 幻の小麦 」と呼ばれるようになった経緯を見てみようかと思います。

 

 

■ハルユタカはパン用じゃなかった?

国産小麦で唯一の強力品種「ハルヒカリ」の後継品種として「ハルユタカ」(1987年品種登録)が誕生して30年が経ちました。

 

photo/ハルユタカ 江別

 

ハルユタカの親である「ハルヒカリ」は強力品種として期待されていましたが、倒伏しやすく(穂発芽するリスクが高まる)、収量が低いという欠点を持っていました。

その後継品種である「ハルユタカ」もまた高タンパクという性質と製粉性が良い点が評価されていましたが病害に弱く、穂発芽耐性が低く、ハルヒカリよりは高収量ではありましたが、一等級品質が少ないという欠点がありました。

 

このハルユタカの用途を考えた時、国産の中では高タンパクであっても

カナダ産1CWと比べるとややタンパクは低く、吸水率も低かったため、遺伝的に製パン性が劣るとされていました。

製パン性に適している遺伝子型のGlu-d1d型を持っていなかったためです。

そのせいもあったのか、当初はパン用ではなくラーメン用として有力視されていました。

当時、パン用小麦といえば、外国産小麦が主流の時代で

国産小麦品種でパンを作る という認識が生まれる以前の時代でした。

今でこそ、国産パン用品種の先駆けとして認知され、その品種独自性に定評を得ていますが、ここまで来るのに30年かかりました。

 

(ハルユタカが誕生した1985年当時、地元産小麦でパンを作ろうと取り組んでいた株式会社 満寿屋商店2代目社長 杉山健治氏は、最初からハルユタカをパンに使うことを考えていました。この2年後の1987年にハルユタカが品種登録されたと同時に、2代目杉山社長が国産初ハルユタカ100%パンの販売を実現しました。「北海道産小麦でパンを作ろう」と発想した人物の存在とハルユタカの誕生が重なっていたのは、ある意味すごい偶然の巡り合わせではないでしょうか。)

 

 

■不遇の時代変化と新品種の誕生

品種登録されてからは「春播き品種」「国産強力品種」として輪作体系の1役を担いました。

また、コメ作からの転作奨励金や秋播き小麦以上の利益が期待出来ることから、作付けが急増し、年度の天候にも恵まれこともあり収量も充分にありました。

順調な船出をしましたが、天候を相手にしている農業ですから悪い時も来ます。

1992年、93年と2年連続の大不作を経験。(第1次不作年)

その後の第2次不昨年の98年から2000年にかけては、補助金制度の変更と春播き新品種「春よ恋」の誕生が重なり、春播き小麦の座を「春よ恋」に譲ることになります。

 

photo/ハルユタカ 江別

 

・制度の悪い面が影響?見た目で格下げ

等級検査といわれる品質検査結果によっても、補助金額が増減します。

小麦の品質を確認する上で、とても大切な検査ですが

この中の項目の1つに「見た目」というのがあります。

硬質小麦=ガラス質の小麦は、えてしてシワが出来易く、ゴツゴツした外観になる傾向があります。

強力品種は特に見た目が悪くなる性質を遺伝的に持っているため、成分検査で問題が無くても、この「見た目」検査で落とされるリスクを持っています。

 

人間でいうと、「あなたは顔が良くないので2等です。」と検査官に判定されるのです。

「 見た目で判断しないで中身で判断してくれませんか 」と言いたくなりませんか?

 

この「見た目」検査は硬質小麦にとっては不利な項目なのです。

ランクを下げられた小麦は、当然買い取り金額も下がるし、補助金額も下がります。

下がって、下がって・・・農家さんの手取りが下がります。

 

 

・穂発芽しやすい。デンプン粘度の低下 低アミロ化

収穫時期の雨の影響を受け易いハルユタカは、穂発芽の危険といつも隣り合わせです。

穂発芽をすると、小麦粉中のデンプン粘度が低下し、加工適性が劣る品質になるため「規格外」として扱われます。

デンプン粘度は、FN値(フォーリングナンバー)やB.Uという数値で現されます。

この数値が300以下になると、加工適性が悪くなります。

 

あえてパンに使うと

べたついた生地になり、全く膨らまないパンが出来ます。(実証済み)ただし、パンがとても甘くなります。

 

(規格外小麦/低アミロ小麦を 通常小麦に数割混ぜて作るパンもあります。これは、そもそもパンに使うために育てた小麦なので、最後までちゃんとパン用小麦としてまっとうさせてあげよう という1例です。飼料用になるよりはパン用として使うため、農家の減収を抑えられるというメリットもあります。 しかし規格外小麦を製粉するには、製粉会社の理解が必要です。)

 

こうなると小麦粉として製粉するわけにはいかないので、他の用途(醸造用や飼料など)へとまわされます。

これはハルユタカに限らず、全ての小麦に言えることですが、規格外品となるので補助金から外れます。

そうすると、農家さんの収入は断然減ります。

9ヶ月かけてせっかく育てた小麦が 一時の雨で「 規格外品 」になるリスクがあるのです。

収穫期の雨って本当に怖いです。

 

(パンに使えなくても醸造用、つまり味噌や醤油の原料に、または小麦茶や円麦として使えるので製品製造は可能です。)

 

これまで幾度か、豊作年は良いけど、不作の年は収量が少なく、等級検査でも減額されるというWパンチを受け、収入が激減するという状況を農家は経験してきました。特にハルユタカ(初冬播き、春播き小麦)は、良い時と悪い時の落差が大きかったのです。

そして、不作の年は農家の生産意欲の向上に貢献するだけの十分な理由をハルユタカは持てずにいました。

 

この第2次不作年を機に作付けが激減し、栽培地域も限定的になっていきました。

 

品種としての弱さが天候不順により顕著化し、補助金制度の改訂、等級検査で減額されるという不遇が重なり、その存在は新品種の普及に押され、急速に姿を消していきました。

 

最盛期には10,000ha(平均5,000ha)あったのが、700ha弱まで減少。

作付け面積が減った上に、反収が下がるとますます希少な小麦になっていきます。

つまり、『 幻の小麦 』となっていった理由がここにあるワケです。

 

 

こうして読んでみると、小麦粉と農業がつながって見えてきませんか?

『 小麦粉は農産物 』だということが少し解って来たのではないでしょうか?

北海道に居るとより実感出来ます。