※BL妄想書庫です
苦手な方はお気を付けください
扉から光が溢れる
眩しい
それほど強い光ではないはずなのに
通路の暗さに慣れていた目と、彼に会えたよろこびが、光を強くしていたのだろう
瞬きを三回
「今夜は有給だってさ」
光量は調節され、物と人の輪郭がくっきりと浮かぶ
彼は背に光を受け、半分だけ通路に出ている身体は片手にドアノブを持ち、目を見開いて固まっている
こんな場所に住居があるとは誰も思わない
営業中であろうとなかろうと、訪ねる人間は非常に限られているはずだ
そこへ来るはずも居るはずもない奴が急に現れた
驚くのは当然のこと
「会いたいなーと思って、だから来た」
光に跳ね返されることなく、心は真っ直ぐに彼へ向かっている
忍んだままの心でここに立っていたら、すぐに灰になるか、ステージまで押し戻されていたかもしれない
「…だって…予約は…」
驚いた顔のまま呟く
察するに、やはり俺からの予約は断るよう手を回していたらしい
「マスターの?取り下げるって言ってたけど」
「ちょ…どけっ」
邪魔な身体を押し退けて通路へ走り出る
そこへ微かな声が届く
いらっしゃいませ
そう聞こえる
店に客が来たのかもしれない
「もうステージに出んのか?その格好で?音楽も照明も変わってなかったみたいだけど」
彼もすぐに自分の姿に気付く
ぺろ~んとした生地のTシャツと、びよ~んとした印象のズボン
「それだと簡単に落ちるんじゃなかったっけ?」
…チッ
懐かしい
彼の舌打ちを聞くのは久し振りだ
「入っていーの?」
暗い通路から戻ってきた彼は住居らしき部屋へ入っていく
扉は開いたままだ
「…そこで騒がれたら店に迷惑」
狭く暗い通路で一人膝を抱えて閉店までの時間を過ごすことになるかもしれない
そういう覚悟はあった
全く歓迎されていないことに変わり無いが、入室の許可が出たのは大きな一歩
「だよね、お邪魔しまーす」
彼に続いて部屋に入る
簡易的なキッチンが組み込まれている廊下を抜けると奥に部屋が一つ
こんな場所にあるとは思えないくらい広く感じる
テレビ、ゲーム、クッション、見たことのある衣装が吊るされているラック、窓は無い
「こんなとこまで入ってくるなんてなに考えてんだよ、非常識だろ」
壁際のベッドにぼすんと座った彼が言う
「そうだよねー」
床に転がっていたクッションに腰を降ろして俺が言う
「しかも有給って…ふざけたことしやがって」
「休めって言っても休まないから消化させたいんだってさ」
「余計なことすんじゃねーよ、追い出されたらどーしてくれんだよっ」
妙な焦りが見える
有給を貰ったからといって「追い出される」に直結させる事と何か関係があるのだろうか
「雇用主から休めって言われて休むのにそう簡単に追い出されるわけないだろ」
「あんたには分からないだろーね!帰る場所も待ってる人も働く場所もたくさんある奴には!あー、羨ましい!あははっ!」
嫌な声で笑う
全く可愛くない
「俺はあなたと違ってここにしか居られないんですよ、だから、邪魔しないでくださいませんか?!」
焦りが苛立ちに変わる
自分は自分の力のみで生きている
だから放っといてくれ
そう言っている
随分悲しい事を言うな…と思う
何を語ろうとも好きという気持ちが萎えることはない
しかし、今の表情は似合っていない
言い方も、声も、その考え方も、はっきり言って憎たらしい
つづく