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携帯のナビに登録した松本さんの住所。


キョロキョロしながら何とか暗闇の中たどり着いた。

良い男なだけあって、良いマンションに住んでる。

俺は煌びやかなエントランスで、彼の部屋の番号を呼び出した。


オートロックの厳重な扉が開いて俺はカメラを一瞥する。


2台並んだエレベーターの一台に乗り込み携帯の電源を落とした。


電池が切れて、寝てしまった。

相葉さんにはそう言おう。


俺は携帯をポケットにしまって玄関扉が開くのを見つめた。


「いらっしゃい。」

「来るつもりなんて無かっ!んぅっンゥッ!ぅゔーっ!!ップハッ!松本さんっ!!」

玄関へ引き入れるなり、唇を塞がれ、身を捩った。


「今更何、かまととぶってんだよ」

松本さんは俺に振り解かれた腕をまるで刑事に捕まった犯人みたいに上げて見せる。

ぶってなんかない。」


松本さんはフワッと笑うと俺の手を引いて部屋の中へ歩き出した。

リビングに出ると、洒落たソファーに誘導されて俺は仕方なく腰を下ろした。

随分と高そうなソファーに肩を竦めてしまう。

松本さんはキッチンから缶ビールを2本持って来て、そのうちの一本を俺に手渡した。

浮かない顔のまま手にした缶にコツンと勝手に乾杯される。

ドサッと隣に沈み込んだ松本さんはプシュっと軽快な音で缶ビールを開けた。

俺は手渡された缶ビールを開けないまま、持て余す。

相葉くんと居た?」

俺は隣に座る松本さんにゆっくり視線をやる。

「相葉くんの使ってる香水の匂いがする。後さ首、見えるとこにキスマークついてるけどまさか、それも相葉くん?」

俺はパッと首を押さえた。


まさか、見えるところにまで


焦ったけど、それを隠すように呟いた。

だったらビックリするでしょ?」

俺は不敵に微笑んだ。

松本さんはゆっくり俺の膝に頭を寝かす。

「別にそんな気はしてたしな。相葉くん、分かりやすいんだよ。」

膝枕の状態になった松本さんは俺を見上げてくる。

「フフ確かにわかりやすい。」

「幸せそうに笑うんだな。」

俺は微笑んでいた顔をピタッと無表情に戻した。

「話ってなんだよ」

松本さんが手を伸ばして俺の頬に触れる。

「俺と寝た事相葉さんには黙ってて。お願い」

「良いよそんな可愛い顔でお願いされちゃあ仕方ないな。」


俺は話が上手く進み過ぎだと口を尖らせた。

「キスして」

松本さんが頬を撫でていた手を移動させ、俺の唇を撫でる。

「松本さん

「キスしろってば」

俺はゆっくり膝枕した松本さんに屈んで口づけた。


ドキドキしないのに、気持ちいい。

不思議な口づけが終わると、松本さんは呟いた。


「ニノ俺の好きはどこに行けば良い?」


外でザァーっと強い雨音が鳴り始めた。

大きなガラス扉に、雨粒が激しく打ち付けてくる。


「初めから好きなんてなかったんだよ」


俺がそう呟いたら、松本さんは俺の髪を掴み、グンッと引いた。

ガクッと膝枕の松本さんに顔が近づく。


「初めは無くても、今は有り余るくらいだ。俺の好きはちゃんと存在してる。だからそんな事……言うなよ」


俺はフイと視線を外して、ほんの少し、胸が痛むのを感じていた。

それは松本さんが元彼に似ていたせいだと思う。

他に幾らだって相手は居るのに俺に固執するフリをするんだ。

俺は勘違いして勘違いして、その恋が本物だと思い込んでしまった。

辛くて、苦い恋物語だった。


乱暴に髪を引っ張られ近づいた綺麗な顔に、俺はゆっくりキスをした。

「ごめんごめんね」

そう言って、何度かキスを繰り返した。


そうあの頃のように