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夜なのに光が眩しい。

目を引くように、機械ですら必死になって人を呼び込んでる。

チカチカ チカチカ目まぐるしく変わる電光掲示板

映像や文字で性を誘惑して、簡単に人間の感覚を麻痺させる。


エロい事がしたい。

可愛い子と寝たい。

欲望を満たしたい。


複雑に絡み合う感情がこの街を生きて歩いてる。


俺は歓楽街をウロウロと彷徨いながら躊躇っていた。

相葉さんに会いたい。

相葉さんの声が聞きたい。

だけど俺にその甘えは許されるのかな


深みにハマるのは俺だけなんだ。

相葉さんからもっと欲が感じ取れたら良いのに。


あの人からは何も読み取れない。


俺は立ち止まって、相葉さんの店へ向かった。

我慢出来ないのは俺。

人を好きになった事はない。

だけど多分俺、相葉さんが好きなんだ。

あの人に初めてキスをした時から、想いに気付くより身体が動いてた。



多分もう閉店の時間。

少し先に見える店はいつだったかと同じ、テラス席のテントが畳んである。店内のライトは消えて、ぼんやりダウンライトだけが灯ってた。

カランカラン

入り口を開いて中に入った。

「こんばんはぁ

シンとした店内。

俺は一歩、また一歩と中へ入った。

厨房には蛍光灯が点いてるだけど誰も居ない。

カランカラン

背後で突然ドアベルが鳴ってビクッと身体が固まる。

恐る恐る振り返ると、段ボールを抱えた相葉さんが立っていた。

『ごめんごめん!!ビックリさせちゃったね!倉庫にね、材料取りに、よっいしょ』

相葉さんは厨房の入り口にあるカウンターに段ボールを乗せた。

パンパンと手を叩いて、いつものように微笑んだ。

『奥で待ってて。』

「ぁうん

俺は飛び上がらせた肩をやっと鎮めていつもの席に向かった。

厨房からカチャカチャフライパンがコンロに当たる音がする。

薄暗いせいか、頰を机に寝かして目を閉じたら少し眠くなる。

腕はダランと垂らしたまま、ダラしない。

暫くボンヤリした時間を過ごした。

どれくらい待ったかも分からない。

相葉さんが近くに居るという事に安心していたせいかも知れない。

『お待たせ。気に入るかなぁ』

コトンと静かに置かれた皿には美味しそうな香りを漂わせるデミグラスソースがかかったハンバーグが。

「うわぁ!!ハンバーグじゃん!!」

俺は机の端を握って目を輝かせた。

『クフフ、ニノ好きって言ってたからね、ランチタイムに出そうと思ってさ。試食、頼むよ』


「良いの?」

『うん。さ、食べて』

俺は用意されたナイフとフォークを使ってハンバーグを切り分けた。

肉汁がジュワっと流れて、ゴクッと喉が鳴る。ゆっくり口に運んだら、デミグラスソースの味だとか、ハンバーグのふっくら加減だったりが俺の中で満点をつけていた。

「うっま!!!うまいっ!!」

『本当っ?!やったぁ!じゃあ、ランチで出しても大丈夫かなぁ?』

相葉さんが嬉しそうに笑う。

幸せそうに笑う。

俺はそれが嬉しくて、口の中のハンバーグがあんまりに美味しくて幸せで、バクバク口に運んでしまう。飲み込み掛けた瞬間に、携帯が鳴った。

俺はゴクっとハンバーグを飲み込んで相葉さんに声を掛けて電話に出た。

「相葉さん、ごめん、電話みたい。ハイ。あぁはい早めでロング料金?分かった。すぐに行くよ。はい。」

画面をタップして、向かいの席に目をやる。

相葉さんは暗い表情で俺を見つめた。

『仕事?』

……ごめん、ここで出るんじゃなかったね。今日はさ、ちょっと稼げそうなんだ。」

誤魔化すみたいにヘラッと笑って見せた。

『稼げそう?』

「あぁ…3P。コースにあるんだよね。たまにしか出ないんだけどってごめん。食べたら行くよ。早めに来いってさ」

カチャンとナイフとフォークを持ち直した。

『ニノ

薄暗いダウンライトの下で、イケメンが複雑な表情を浮かべる。

「ごめんって!仕事の話なんかして悪かったよ。もうしない。だからそんな顔しないでよ」

相葉さんは俯いてしまった。それから、急に立ち上がって、俺を見下ろして何か言いかけたけど力なく椅子に座って、俺から目を逸らした。何も見なかった振りをして、それを演じて、俺は目の前のハンバーグを完食して、手を合わす。

「すっごい美味しかった。ありがとう!じゃ、行くね」

席を立つ。

相葉さんの横を通り過ぎようとしたら、手首をガシッと掴まれた。

俺はビックリして振り返る。

相葉さんは手首を掴んだまま席から立ち上がった。

俺に向き直って

……仕事終わったら何時?』

「な何時ってどうかな延長とかもあるし金持ちみたいなんだよね下手したら朝だよ」

苦笑いする俺を見つめて、相葉さんは視線を落として行く。

それから、小さな声で言った。

『モーニング用意してるから終わったらおいで』

うん動けそうだったら

『え?』

「うん相葉さんは知らなくていいよ。元気そうなら寄るね。ほら疲れちゃってたら朝飯なくても寝ちゃうからさ。」

俺はいつまでも掴んだ手首を離してくれない事に戸惑っていた。

「あ、相葉さんあの、手

『あぁっ!ごめん!じゃ、じゃあね!』

「うんじゃ!」

俺は何度か軽く頷きながら相葉さんから離れ店を出た。

相葉さんからは、欲が見えない。

だから、どうしてあんな暗い顔をするのか、どうして俺にあんな風に構うのか分からない。


約束の高級ホテルがそびえて見える。

夜なのに電気で白んだ空の中、俺を迎えるようにポッカリ口が開いて見えた。

ポケットに両手を突っ込んだまま歩く。

今から罰の始まりだ。

ハンバーグ食って幸せなんか感じちゃったんだからその代償はデカいだろう。

自嘲した笑みを浮かべて、前に進んだ。