今日の愛ルケ(#377-378) | にっけいしんぶん新聞

今日の愛ルケ(#377-378)

この記事は渡辺淳一先生の連載小説「愛の流刑地」を記者が個人的な視点で読み解く記事で、性的な描写かなり出てまいります。そのような記述を好まない方、ストーリーをブログ上で知りたくない方、並びに15歳未満の方はご遠慮ください。
と断っておりましたが、最近は性的な描写はほとんどでてまいりませんので、むしろ性的な描写をお望みの方はご遠慮なさったほうがよいかもしれません。
なお、記者がまとめたあらすじ中の灰色文字部分は、作品のテイストをできるだけ伝えるために原文をそのまま引用した部分です。



野分 九

「わたし弁護人は、今回の被告人村尾菊治による殺人は、きわめて偶発的、かつ突然的なものであることを主張します」
北岡弁護士は穏やかな口調でいう。
その第一点は、被告人は圧倒的に被害者を愛していた、という事実です。それは知り合って何度もの逢瀬、時間のやりくりや経済的負担などから察することができます」
菊治はただ逢いたかっただけで、あらためて真剱な愛だったなどといわれるのは気恥ずかしいが、それも情状酌量をかちとるための必要な手段なのだろう。
「第二点として、被告人のあのような行為は被害者の求めに応じたものである点です。被害者は被告人と関係して性的快感の絶頂期に「殺して」と訴えるようになり、被告人はこれに応えて首を絞めたが被害者はさらに強くこれを求めるようになり、被告人が戸惑うと『意気地なし』と、ののしることもありました
あれは冬香の誕生日、箱根の夜。久しぶりに遠出して、二人でゆっくり泊まったせいか、冬香はいつになく興奮して、さらに強く首を絞めろといった。戸惑うと意気地なしといわれ、さらに強く絞めても大丈夫だと思った。
「それ以来、エスカレートする被害者の要求に応じてさらに強く絞めたが殺す気はなく、事件の際も死ぬとは思っていませんでした。求めに応じて絞めつけるうちに狂気の状態となり、思わず異常な力がくわわり、殺すにいたった、というのが実情です
菊治のいってほしいことを主張してくれる弁護士が、菊治には白馬の王子のように見える


#は、白馬の王子…・・・。

傍から見ると問題大ありの弁護士でも、菊治にはそう映ったようです。

えらく年をとった王子様ですが、うーむ、しかし白馬の王子のキタオカさんよりも、たとえ畑違いでも白馬の騎士ホワイトナイトでおなじみのキタオさんのほうが頼りになりそうな気がしますよ・・・。


さてとにかく弁護側の冒頭陳述が始まっています。
罪状認否ではどう読んでも認めたと思える殺意を、なぜだかいまさら否定し始めました。
しかし今回の件を「事故」ではなく「殺人」と認めるあたり、いったいどうしようというのかまったく理解に苦しむところです。

しかも、その内容たるや・・・


逢瀬のための時間のやりくりや経済的負担などからも、十分に察することができます


は、はぁ??

経済的負担はめちゃくちゃケチりまくってましたけど??

9ヶ月の交際で金を使ったのはせいぜい数回京都に行ったのと、いくらだかわからないホワイトメタルのペンダントだかネックレスと、正月と二月の連休の晩御飯とタクシー代と箱根旅行の代金くらいですが??
たしかに小田原-芦ノ湖間は「圧倒的に無駄な」タクシー代も費やしていましたが。

しかも冬香が引っ越してきてからは毎週2回だか3回だか部屋に呼びつけて食事はおろか水も飲ませなかった事実もあるのですよ。
これのどこが「圧倒的に愛したことを証する経済的負担」ですか?

「時間」に至ってはちゃんちゃらおかしいですよ。
どう考えても圧倒的に冬香のほうが無理してます。

これで改めて「真剱な愛」だとは、菊治どころかこっちが気恥ずかしくなるような話ですよ。
いや、弁護士はどこにもあらためて「真剱な愛」なんていってませんけどね。

ていうか「圧倒的に愛して」って、なんで弁護士まで愛ルケ臭ぷんぷんのフレーズ使うかなあ・・・。


それはさておき、弁護士は続いて「殺して」「意気地なし」発言で被害者の求めを主張しますか。
それをききながらの菊治は・・・


いつになく興奮した冬香がさらに強く首を絞めることを求めてきた。戸惑うと「意気地なし」といわれたので、さらに絞めても大丈夫だと思った。


ほんとに犯罪者の言い訳そのまんまの思考回路だな・・・。
しかも言い訳じゃなくてマジなだけにむしろタチが悪いよ・・・。
ていうか「いつになく興奮した」やつのいうことを真に受けてんなよ・・・。


おっと、北岡弁護士もその線に乗って、被害者の求めに応じただけで殺す気はなかったと主張し始めました。
さあ、白馬の王子は美人検事にどこまで立ち向かえるのでしょうか。
そして最後には勝利の嘶きをひひんとあげることができるのでしょうか。

って、それじゃ王子じゃなくて馬だって・・・。



野分 十

北岡弁護士は第三点として、被告人には被害者を殺す理由はなく、ひたすら被害者を愛し、逢いたいと願っており、恋愛が順調に進んでいるのに被害者を殺してもメリットはなかった、と続ける。
まさにそのとおりで、マスコミがなんといっても菊治は冬香との愛をいつまでも続けたいと願っていた。
そこで弁護士は『虚無と熱情』の本を手にかざし、この本を証拠として採用して欲しいという。「この本は事件の一ヶ月前に被害者との愛の体験をもとに書き上げられたものです。その証拠に、冒頭に、「愛するFへ捧げる」と記されていますが、このFはまさしく、被害者の頭文字そのものです
菊治は「そうだ」と思わず心の中で叫ぶ
「本が出たらお祝いしようと誓い合っていたのになぜ殺すことがあるのか」
傍聴席はやはり静まり返っているが、検事の冒頭陳述のときよりは空気が和んでいるようだ。
「相思相愛、それも精神だけでなく、肉体的にも見事に癒合した、いわゆる大人の成熟した関係で、被告人も被害者も心身ともに深く溺れていました。いわば肌が合うというか、躰そのものが求め合っていたのです
さすがに年令の功か、いうことのひとつひとつに薀蓄がある
「殺す理由などないのに、求められて興奮のあまり首を絞めつけた以上のことから、計画性のない、嘱託殺人に相当すると考えます


#前の回のコメント欄で「先はさらにひどいことになっている」ときいていたのですが、今回読んで見て驚きました。
なんでしょうか、これは・・・。


いうことのひとつひとつにあるのは、
薀蓄じゃなくて含蓄だろ!!


それともそういう言い回しもあるのでしょうか・・・って、ん?
そこじゃないですか?
そうですか。
じゃあここですかね??


年令の功って、弁護士はお前より年下だろ!!


まったく、誰と比べて年の功っていってんだか・・・って、あれ?
そうじゃないですか?
・・・そうですよね。
菊治じゃないですよね。
ええ、やはり今回の問題児は北岡弁護士でしょう。

いやあ、いきなり「キョムネツ」をとりだして、丸ごと一冊「証拠」として採用を迫る強引さには参りますね。
だいたい、愛し合っていたことの証拠、二人が心身ともに溺れていたことの証拠、肌が合っていたことの証拠として提出したつもりかもしれませんが、「Fへ捧げる」献辞があろうがなかろうが、とにかくこれ、フィクションですから。
主人公は無意と満子ですから。
ついでに本が出たら二人でお祝いしようと誓い合っていたっていいますけど、事件があったのは思いっきりボツになった後でしたから。

ていうかそもそもこの小説・・・


二人が別れる話ですから。


愛し合った挙句に、最後は男が虚無の荒野に旅立っていくんですよ。
北岡センセイ、ちゃんと最後まで読みました?

まったく、そんな本をわざわざ持ち出して、「肌が合う」とか「躰そのものが求め合う」とか、冒頭陳述から薀蓄も含蓄もない下世話な表現でなにいってるんでしょうかねえ。
「肉体的に癒合」ってのも「愛ルケ」外では通じない言葉ですし・・・。
ましてや「大人の成熟した関係」だなんて、


お前は細川護熙元首相か!?


っつうんですよ。(覚えてないですか?)

そしてとどめに、そうまでしてなんとか証明したいってことが・・・



「これは計画性のない嘱託殺人」



・・・。


なんで?

Why?


殺す理由がないんだから当然殺す気もない、よってこれは我を忘れての首絞めプレイ中の事故、それでいいじゃないの。
なんでわざわざ圧倒的に立証の難しい「戯れや口癖ではない冬香の殺人の依頼」が必要な「嘱託殺人」の線を選ぶのよ。

あんたも冬香はセックスのたび絶頂のたびに「殺してー」「殺してー」と叫んでいたのは知ってんでしょうが。
それを客観的に「自分を殺すことの依頼」もしくは菊治がそう受け取っても仕方がないと証明するのは無理でしょうが。


つうか菊治本人もそう受け取ってなかったでしょうが。


いやはやまったく理解できません。

頼みますよ、弁護士会さん。
いくら当番弁護士っつっても、こんな弁護士をよこされちゃたまりませんよ。

・・・ん?

そういやあこの弁護士、逮捕後に最初に現れたときに菊治は「国選の弁護士か」なんて納得してたけど、弁護の依頼もしなかったのにそのあと何度も現れて、しかも現時点で資力のある菊治の弁護を担当してるってことは・・・


菊治、おまえたまたま当番弁護士だった仕事のないダメ弁護士に、知らないあいだに依頼したことにされちゃってんじゃねえか?


そうか!
なるほど、インチキ弁護士。
殺人でも過失致死でも被告人は遺族への賠償で無資力転落は間違いないし、それならいっそ「嘱託があった」って方が支払いは少なくなるかもしれないと・・・。
そしてなにより被告人の資力形成のため、

「キョムネツ」の宣伝は欠かせない

ってか?


法廷の「虚無と熱情」
担当弁護士も絶賛!!
挿画:小松久子先生




追伸
えっと、裁判の進行のほうですが、とりあえず検察側の証拠調べは終わりにして、弁護側が冒頭陳述を行い、証拠調べ請求(キョムネツの提出?)をやった、ってことでよいのでしょうか?
正確な答えが出しうるのかどうか、記者にはわかりません、ていうかどうやら出せないらしいです・・・