今日の愛ルケ(#30) | にっけいしんぶん新聞

今日の愛ルケ(#30)

密会 七

京都には定刻の9時20分に着いた。
ホテルに向かい、メールで冬香が向かっていることを確認してからチェックインする。もし冬香が来なければ無駄になるからだ。
8階のダブルの部屋からは京都の街が見下ろせる。降り始めた霧雨は秘めやかな逢瀬に似つかわしい。
ラウンジに下りる。気忙しく行き来する朝の人々を尻目に密かに女性を待つ自分を困った奴だと思うが、自慢したい気持ちもある。
コーヒーを頼んだところで冬香が現れる。今日の冬香は白いカットソーにベージュのブレザー。
少し前に新幹線で着いたという菊治に、「ごめんなさい、こんな早く・・・」と申し訳なさそうに頭を下げる。
菊治はその恐縮しきった表情を見ただけで、来た甲斐があったと思うのであった。


#やる気マンマンで乗り込む菊治ですが、チェックインする前には無駄にならないようきっちり確認。
まあ、3万円もする部屋な訳で当然と言えば当然なのですが、渡辺先生が敢えてそこまで書いているのは菊治のこすい人間性を浮き立たせたいのでしょうか。

そして朝から働く人々を眺めて自慢したい気持ちになる菊治。
有休を取った日など、仕事に向かうサラリーマンを横目に遊びに出かける気分は確かに最高です。ましてやデートです。
嘉門達男の「人が仕事をしてるのに」という歌を思い出しましたが、そんな感じです。あ、いえ、知らなくて結構です。
とにかく気持ちは分かります。

しかしです、しかしですよ。
さっきまで劣等感の塊だった男が、この変わり様です。
「ああ、おれは朝っぱらからこんなとこまで子持ちの人妻追っかけて、落ちぶれたもんだ。おお、あの若くて綺麗な女性はどこへ行くのだろう、仕事だろうか、そうでないとしたらどこへだろう。デートだろうか。相手はどんな奴だろうか。金持ちだろうか、若いのだろうか・・・」などというネガティブな妄想は一切展開されません。
グチグチ言っても「女と逢える」となれば我が世の春です。いやもっとはっきり「できる」となったら有頂天と言ってもよいでしょう。
相手だってもうかなり誰でもいいはずです。

そして謝る冬香を見て、この表情を見るだけで来た甲斐があった・・・

嘘つけ、と。
じゃあ帰っていいのか、と。
でも女性のそんな表情が好きなのは本当でしょう。
いわば謝りフェチ。

到着早々の冬香に早くもエロティシズムを見出した菊治、頭の中はもはや妄想超特急のはずです。