「発想が浮かびやすくなる瞬間を、昔の人は『馬上・枕上・厠上」(ばじょう・ちんじょう・しじょう)』といいました。馬上は馬の上に乗っているとき、枕上は寝ているとき、厠上はトイレにいるときです」  高崎充弘

 

◆いつでもどこでも「ひらめき」をキャッチする

 

 「ひらめき」はいつやってくるか分からない。人によってアイデアや発想が浮かぶ時や場所は異なるものだ。歩いている時、シャワーを浴びていると時、ボーッとしている時、トイレで大便している時、眠りに落ちる寸前…と、アイデアや発想はいつ降りてくるか分からないものだ。大切なのは「ひらめいた」瞬間にキャッチすることができるかどうかだ。

 

 僕の場合は、「ひらめく」瞬間や「アイデア」が思いつくのは、眠りにつこうと横になっている時、もしくは本や雑誌を読んでいる時である。何か素晴らしいアイデアが思いついても、すぐに「メモ」しておかない限り、ずっと頭の中に記憶しておくことはほぼ不可能だ。人間の頭の中にはいろんなことが浮かんでくるもので、新しいことが頭に浮かんだ瞬間に前に思いついたことが頭の中で上書き保存されてしまう。そうなったら、なかなか「さっき思いついたことって何だっけ?」という若年性認知症のような状態になってしまう(笑)。だからこそ、ひらめきやアイデアは「その場でキャッチする」ことが重要なのだ。

 

 大切なアイデアやひらめきをその場でキャッチするためには、いつどんな時でも「メモる」ことができるようにしておくかだ。僕の場合は、いつもお尻のポッケには「ポストイットメモ帳」と「4色ボールペン」が入っている。カバンの中にもポストイットメモ帳と4色ボールペンを入れてあるし、机の上や本棚などには「マーカー」「ポストイットメモ帳」「4色ボールペン」の3種の神器が置いてある。そう、どこでも思いついたことや浮かんだことを「キャッチ」できる体制にしている。まぁ家人としては迷惑な話なのだが(笑)。

 

◆「素材」をいかに調理するか

 

 いくら素晴らしいアイデアがひらめいても、そのまま放置してしまったら単なるアイデアやネタ、素材で終わってしまう。そのアイデアをいかに仕事や生活の中で役に立つカタチにしてこそ、そのアイデアや発想が活かされる。すぐにカタチにできるものもあれば、ずっと後でカタチになるものもあるが、どちらにせよ「アイデア」や「ひらめき」という「素材」をカタチにするには、自分なりの調理法を考えたり、オリジナルなスパイスをふりかけたりして、「料理」に仕上げることが大切だ。

 

 高崎氏は常日頃から「発想ノート」を側に置いてアイデアを書いたりアイデアを自分なりに加工しているそうだ。

 

 「アイデアを出すことは圧力鍋で料理をすることに似ています。美味しい料理には、まず頭の中にアイデアの元になるたくさんの『具材』を入れます。そして火にかけて圧力を加えるのと同様に、常に問題意識を持って考え続ける。そして最後に圧力をフッと抜き、リラックスすることで、新しいアイデアが生まれるわけです」

 

 最近の脳に関する研究では、人間は睡眠中にその日体験したことや、その日に得た情報を脳内で整理し、記憶として定着させることが分かってきている。日本の製造業では、よく工場内に「5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)」という紙が貼ってあるが、いいアイデアというのは就寝中に頭の中でこの「5S」がしっかり行われたときに生まれるのではないかと高崎氏は考えている。

 

 お酒をいっぱい飲んでしまったときや、睡眠不足のときにはいいアイデアが浮かんでこないものだ。これは脳内の「5S」がアルコールや脳の疲労によって邪魔されるかららしい。まぁ僕の場合、超睡眠不足の状態になるともの凄いアイデアが浮かんでくることがあるが、睡眠不足がたたって翌日や翌々日には使いものにならなくなる。だから日頃からアイデアをいっぱい出すためには、やはり自分にあった睡眠時間を確保することが望ましい。

 

 僕はアイデアや思いついたことはポストイットに書いて、それを「気づき・アイデア・ネタ」というノートに貼っている。高崎氏と同様のやり方だが、ノートに貼っているアイデアやネタにさらなるアイデアを加える「加工」の時間を持つようにしている。さらなるくだらないネタになってしまう場合もあるが、素晴らしいアイデアに昇華させられることもある。高崎氏はこうしたアイデアを加工する作業を「ノートと自分のキャッチボール」と呼んでいる。

 

 アイデアが書かれているノート自体というのは、それ自体が価値を生むわけではない。価値を生むのは、あくまでも「自分の脳」である。ひとつのアイデアをきっかけに、考え続けていた自分の中の課題を解決するためにそのアイデアから発想をふくらませる。そしてその発想をまた「5S」で情報を整理整頓しながらノートに書き出してみる。そんなふうにして考え方を整理したノートと自分との間でキャッチボールを繰り返すことで、素晴らしいアイデアが生まれてくる。

 

 仕事のことだけでなく、自分の健康や生活を改善する上でもこうした作業は役に立つ。まずはアイデアをキャッチして、それを加工して、実際に役立つものにまで考え抜く。これを繰り返すことできっと素晴らしい価値ある人間になれるはずだと思いながら、今日もポストイットにアイデアを書いている。