満州裏史(太田尚樹著) | 本のブログ

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普通の人は読まないだろうと思う本を記す。
あとは、Linuxと中古PCなどの話題。

本書は2005年講談社から刊行されたもの、私は、2011年初版の講談社文庫版で読む。

 

故安倍晋三氏の祖父である岸信介という人物に興味をもったことが本書を読もうと思ったきっかけで、実際は、安倍氏生前に購入していた。

それが、いまさらになって読んでみると、岸信介という人物のある側面が見えて来る。

ただし、本書を岸氏の経歴を追うものとして読むと失敗する、ほとんどの部分は甘粕正彦氏の行動を通して語られるからだ。

私は、甘粕氏はあの大杉栄を殺害した人という先入観に囚われていた、しかし、本書を読むと、政治的に利用された人物だったという位置づけになっており、あの戦前、満州国の経営を影で支えていたという事実が浮き彫りにされる。

政治に必要な要因はいくつかあると思われるが、大きな要因の一つに「カネ」がある。

最近、国会で政治資金の使徒が不明だとして論議が盛んだが、あまりに潔癖すぎると、政治が機能しなくなる可能性について、誰か指摘しないのであろうかと思う・・・ただし、マスコミの表の部分では悪として糾弾せざるを得ないという「建前」を国民が了解できるかどうかだとも思われるのだ。

 

カネの問題、それが、正に、本書で取り上げられた満州国の経営なのだ、日本と比べて、面積もそうだし資源も豊富な満州国を手にして、これを、大きく近代的に発展させるにはどうすれば良いだろう?

政治的手腕はもちろん必要だが、それに加えて、資金も必要だ、だから、岸氏もアヘンに直接的にではないが、取り巻きを使って取引をさせ、それを資金として投じたとして、それは、是だろうか?非だろうか?

現在ならば、ためらうこともなく「否」であろう。

しかし、当時の状況ならばどうだろうか?

 

政治には清濁の2面性があると思う、これを、いかに民主主義とは言え、専門外の人間が軽率に、判断を下しても良いものなのだろうか?

これは、いわゆるポピュリズムの問題と言えるのだろうけれども、より複雑で専門性の高い問題に直面している時(いまの日本がそうだろう)、どうしても、短期的判断になりやすいポピュリズムで、政治判断するのはいかがなものだろうか?

本書を読んでいてそんなことを考えていた。

 

そして、戦後の奇跡的な復興を考えた時に、岸信介は、戦前に同様のシミュレーションを、満州国で実施していたことが、大きく役に立ったのではないか・・・と、穿って見てしまうしまうところもあるのだ。